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星組 和 涼華

4月30日まで上演の星組宝塚大劇場公演は、宝塚舞踊詩『さくら』-妖しいまでに美しいおまえ-と、1940年代のカリブ海に浮ぶ島々を舞台にした詐欺師とプリンセスとの恋物語『シークレット・ハンター』の2本立て。第93期初舞台生が加わった春爛漫の舞台で、若手ホープの和涼華が新生星組を盛り上げている。

艶やかな男役若衆姿の夢が叶う

昨年7月、6年間すごした宙組から星組に移籍し、大きな活躍が期待されている和涼華さん。

「突然、お電話で組替えのご連絡を頂き、驚きました。もちろん前向きに受け止めました。が、あとでプレッシャーも出てきましたね」

一口に組替えといっても、状況はまちまち。このときは星組からの異動はなく、和涼華さんだけが加わる組替えだった。これからどうなるのかな、という緊張感があったとしても当然のこと。そんなところへトップスター湖月わたるが退団を発表し、星組の熱気が一気に高まった。トップを送り出すサヨナラ公演に続いて、新生星組披露公演が幕を上げる、そんな一大イベントに、和涼華さんの星組デビューはピッタリと重なった。

組替えした和涼華さんを待っていたのは、『愛するには短すぎる』の新人公演主役の座。新公主演は05年8月の宙組公演『炎にくちづけを』のマンリーコ役で経験ずみだが、星組に来たばかりで初めて顔を合わせるメンバーを率いての主演。しかも本役の上級生でもふだん以上の稽古が必要だったという、間のむずかしい、テンポの早い台詞回しが命の舞台。さらに、新公のわずか数日前には『TCAスペシャル2006-ワンダフル・ドリーマーズ』があり、和涼華さんはこれにも出演が決まっていた。いうまでもなく、これら二つの舞台の稽古は本公演終演後に行うから、和涼華さんは移籍早々、まさに時間との戦いだったのである。

「新公のお稽古時間がちゃんととれたのは1週間くらいでしたが、相手役と準主役が同期だったので時間のやりくりがうまくできたと思います。3人でここまで覚えようと綿密に打ち合わせして、休みの水曜日に劇団で稽古したりしました」

将来を嘱望される若手男役の華麗な姿を堂々と披露した和涼華さんの、暖かさを感じさせる端正な顔と、まっすぐな深い眼差しが、窓から差し込む春の陽光を浴び輝いている。

思い返せば、初舞台のときも稽古時間のやりくりに追われた。2000年4月、花組宝塚大劇場公演『源氏物語あさきゆめみし』で初舞台を踏んだ和涼華さんたちの学年は、次の星組宝塚大劇場公演『黄金のファラオ』『美麗猫』にも全員で出演した。星組の稽古は花組公演中に行なわれるから、和涼華さんたちは星組の稽古に参加しないまま、楽屋も移ることなく、星組公演に出演したのである。もちろん新人公演にも出た。

こんなことは初舞台生といえども劇団では異例であり、1999年に初舞台を踏んだ第85期生が初舞台公演に続いて大劇場公演に出演したときの作品は『ノバ・ボサ・ノバ』の続演だったから、異なる作品に出演した和涼華さんたちのケースとは状況がちがう。

「その星組公演中に宙組に配属が決まり、和央ようかさんの主演男役お披露目『望郷は海を越えて』『ミレニアム・チャレンジャー!』から宙組生としてスタートすることになりました」
 和涼華さんが宝塚音楽学校を受験した年に宙組が誕生した。その第1回公演を観て、パワーに圧倒され、すごい組だと宙組ファンになった和涼華さん。

「宙組へは身長の高い人が入ると思っていたので、同期の中でもそれほど高くなかった私が配属され、驚きしましたが、うれしかったです。ナマの舞台やビデオで繰り返し観たあのパワーは、どれだけ稽古をしなければ出せないか学べましたし、エネルギッシュな舞台はどんな端にいてもすごく楽しかったです」

大作続きだった宙組時代。なかでも2004年、『ファントム』の新人公演でファントムの父でオペラ座の前支配人キャリエールを演じた経験は大きな財産になった。

「キャリエールを演じていなかったら、今の私はいないだろうと思うくらい。当時の私は準主役を演じるのも、ソロをたっぷり歌うのも初めてで、まだ下級生の和涼華にキャリエール役は無理だろうという周りの視線を痛いほど感じていました。でも本役の樹里咲穂さんや、星組から特別出演してシャンドン伯爵を演じた安蘭けいさんにもたくさん教えていただきました。安蘭さんには今も星組でお世話になっていて、ご縁だなと思います。たしかに組替えは自分を見つめ直すきっかけになりました。私の出来不出来で今まで何をやってきたんだと言われるのは悲しいし、宙組の名を汚してはいけない、はずかしくないようにしなきゃと。初舞台に戻った感じで毎日研究したのが、舞台化粧です。宙組はナチュラル系で、星組ははっきり描く。研究中は毎日、ちがう顔で舞台に出ていたと思います」

和涼華さんが初めて日本物の化粧をして挑む舞台が、新トップ安蘭けい率いる新生星組宝塚大劇場披露公演、宝塚舞踊詩『さくら』である。

『宝塚おとめ』に日本物ショーに出たいと、ずっと書いてきました。チョンパで幕があき、若衆になって踊るのが夢でしたから、願いが叶ってうれしいです。でも観るのとやるのとは大違い。日舞は普段からやっていないとだめだなあと思い知らされています。多くの方にご覧頂き、私のように宝塚の日本物を好きになって頂けたらうれしいです。がんばります」
同時上演のミュージカル『シークレット・ハンター』では、イグナシオという刑事役だ。
イグナシオは今までの私のイメージをことごとく覆してくれるんじゃないかなと思うキャラクターです。これまでは耐える役が続いていて、今年1月のバウホール公演『Hallelujah Go!Go!』でも、自分を抑える役だったから、今回の底抜けに明るいイグナシオ役で、自分を思い切り発散できたら、と期待しています」

そのイグナシオを演じるために、和涼華さんは髪をベリーショートにした。演出家の児玉明子氏が希望したヘアスタイルだ。

「ここまで切るのは勇気がいりましたが、ようやく馴染んできたと思います」

3月23日、第93期初舞台生を含む132名による、年に一度、宝塚大劇場だけで観られる豪華な舞台の幕が上がった。この舞台で和涼華さんは入団8年目の新スタートを切った。これまでのように上級生が演じた役に挑戦する新人公演に出演することはなくなったが、そのかわりに本公演で与えられる自分だけの役を練る時間は増えた。時間をいかに有効に使えるかが新しい課題になってきますので、しっかり勉強しようと思います」

もし宝塚に入っていなかったら、留学して英会話を学び、ホテルウーマンになっていたかもしれないと語る和涼華さん。世界中の人々と触れ合いたいという夢は、宝塚スターになった今も心の中にある。時間をうまく使えるようになったら、英会話を学び直し、もっと話せるようになりたいとひそかに思っている。

世界中で愛されている宝塚歌劇。国際派・和涼華さんの魅力はこれから一層注目を集めることだろう。

和 涼華さん

2000年『源氏物語あさきゆめみし』で初舞台、宙組に配属。05年『炎に口づけを』で新人公演初主演。06年星組に組替え。
大阪府出身/愛称・カズ

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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