宙組の新主演娘役・陽月華さんは、2000年に『源氏物語あさきゆめみし』で初舞台を踏んだ翌年、『ベルサイユのばら2001―オスカルとアンドレ編―』で、子供時代のアンドレを演じている。両親を失ったアンドレは、祖母マロングラッセに連れられてジャルジェ家を訪れ、初めてオスカルと出会う。男子として育てられたオスカルと剣を交える、あの有名な[ジャルジュ家の庭先]の場面で、まだ研2だった陽月華さんは、少年のけなげさ、意志の強さを生き生きと演じた。『ベルサイユのばら』での抜擢はそれだけではなかった。プロローグで幕開きを告げる小公女に扮し、美しい歌声を聞かせたのだった。凛とした初々しさに注目が集まったこのときの成果によって、陽月華さんは主演娘役への華麗な第一歩を踏み出したのである。
初のヒロイン役は2003年5月、日生劇場公演『雨に唄えば』のキャシー・セルダン。「初めての通し役で、台詞もたくさんいただきました。タップを踏むことになり、無我夢中で、思い出そうとしても記憶にないくらい」
当時の陽月華さんの健闘ぶりは観客がしっかりと覚えている。164センチのスリムな身体。体重を感じさせない俊敏な動き。どこかちがう星から来たような新鮮な香りを放ちながら、研4になったばかりの陽月華さんは鮮烈にヒロインデビューしたのだった。この公演にコズモ役で宙組から特別出演していたのが、現在の宙組新トップ大和悠河。4年後にトップコンビを組むことになる二人の出会いは、ブロードウェイ・ミュージカルの宝塚版だったのである。
「叔母が宝塚歌劇の大ファンで、チケットをもらって観に行ったのが、安寿ミラさんのお披露目公演『スパルタカス』でした。高校生になって行動範囲が広がると、日比谷にある東京宝塚劇場の3階席を自分のお小遣いで買って観るようになり、もう大ファンに」
東京都立飛鳥高校出身。幼稚園から中学生までは仙台に住んでいたこともある。受験直前の12月、初めて宝塚を訪れた陽月華さんは「緑が多いな、仙台と似ているな」と、なつかしい感じがしたそうだ。
「ずっと共学でしたし、長い団体生活も初めてだったから、多少のカルチャーショックはありましたが、今思い返すと音楽学校時代は楽しかった、の一言に尽きます。私が宝塚ファン時代に、すでに大和悠河さんはスターさん。音楽学校の先生からも『大和悠河さんは音楽学校から何かが違っていたわ』とお聞きして、すごい方なんだなとずっと思っていました。実際にお会いしてみると、ご本人はまじめで練習熱心なかた。だからこそ、あのように素敵な舞台ができるんだなと感動しました」
『雨に唄えば』のあと、陽月華さんはTCAスペシャルにも出演するようになり、新人公演のヒロインも5作演じるなど活躍の場が広がる一方、自身の内面との戦いが増えていった。「与えられたことが思ったようにできない自分に腹が立ったし、体調管理も始めはうまくいかなかった。きっと稽古の仕方がわからなかったのだろうと思います。憧れだけではどうにもならない現実を突きつけられたような気がしました」
最初の新公ヒロイン役が03年7月『王家に捧ぐ歌』の王女アムネリス。この作品はヴェルディのオペラ「アイーダ」を宝塚化した超大作だ。若く美しい武将ラダメスを愛するあまりに嫉妬と憎悪に苛まれるエジプト王女役を前にして、陽月華さんは、「初めて消えてしまいたいくらいのこわさを感じました」この経験が陽月華さんを大きく成長させた。04年『1914/愛』アデル、『花舞う長安』楊貴妃、06『ベルサイユのばら』マリー・アントワネット、そして『愛するには短すぎる』バーバラなど、新人公演のヒロイン役を次々とこなし、バウホール公演でも06年『フェット・アンペリアル』エンマ、07年『HallelujahGO!GO!』ブレンダなどのヒロインを心情豊かに演じ上げた。
「『HallelujahGO!GO!』の集合日直前に、大和さんの相手役として宙組に移籍することを知りました。大劇場でヒロインを演じる夢は大きすぎて、とりあえず音楽学校に入りたい、初舞台まではがんばろう、入団後は8人口に入りたい、次はダブルトリオに入りたい、ソロで踊ってみたいというように、一つずつ夢を抱いてきたので、自分の課題をやり遂げることで精一杯だったと思います。すごく緊張して大和さんにお電話したら、あ、よろしくねっ、とさわやかにお返事をいただき、ほっとしました。大和さんは、とりあえずやってみようとか、前進して行こうとか、ポジティブな言葉でひっぱっていってくださるので、ありがたいです」
宙組主演娘役デビューとなったシアター・ドラマシティ公演『A/L―怪盗ルパンの青春―』の集合日前夜、緊張が最高潮に達して手が震え出した陽月華さん。だが、幕が上がると、お転婆天使アニエスの何と可愛く、美しかったことか。陽月華さんの洗練された動きの一つ一つが、大和悠河の澄んだ華やかさとよく似合っていた。
初めてのラブシーンのあと、一人稽古場の壁に頭をぶつけ続ける陽月華さんを見て、「ふだんはシャイ」と大和悠河が評していたが、「自分では覚えていないので、きっと無意識だったのでしょう。とにかく、ものすごく恥ずかしがり屋。自意識過剰なんですね(笑)」ということである。でも自意識が強くなくてはヒロインは務まらない。
特に芝居が大好きという陽月華さんが、宝塚大劇場新生宙組披露公演『バレンシアの熱い花』で、観客の涙を誘っている。父親の復讐を成し遂げて、遊び人の顔から本来の侯爵に戻ったフェルナンドの大和悠河に、自ら別れを告げる歌い手イサベラの哀しみを、陽月華さんが丁寧に演じているのだ。一転して、ショー『宙FANTASISTA!』では、宇宙人の中でも最高に美しく輝くブリリアントに扮して歌い踊っている。
「大和さんはじめ、宙組のみなさんが温かくて、私組替えしたのかな、と思うくらい、溶け込んでいます」
池田銀行のポスターでも茶目っ気のあるさわやかな笑顔でお馴染みの陽月華さん。
繰り返し観たくなる、可能性いっぱいのスターである。
※次号のフェアリーインタビューは、月組の霧矢大夢さんの予定です。