黄に色づき始めた清荒神清澄寺の大銀杏。11月13日は朱塗りの大傘の下、秋の野点茶会が催され、境内では季節の移ろいを存分に味わうことができます。鉄斎美術館では企画展「鉄斎―多彩な画題・多様な画風Ⅳ―」が開催され、中国故事や日本の歴史、故事逸話から画題を得た鉄斎独自の世界が展開、89歳まで衰えを見せなかった鉄斎の制作意欲を多彩な画題・多様な画風に感じることが出来ます。現代の南画を追求し、日本画の普及に力をいれている現代南画協会理事の菊池享さんと展覧会前期を鑑賞、鉄斎ワールドを満喫しました。
私が鉄斎の画の本物を初めて観たのは高校生の頃でしたが、墨の迫力に圧倒されたのを覚えています。鉄斎の遺されている最も若い作品は29歳だそうです。私も29歳から絵を始め、今、35年。鉄斎は89歳まで60年描き続けたというまさに、長寿のモデルになるべき人です。
展覧会でも80歳代の作品が多く展示されていて88歳で描いた「寿老歓酔図」(ポスター)は『詩経』から画題を得た作品で、快人に向って詩を吟じ、自己を知る者と酒を呑む姿が描かれ、その中の寿老人は鉄斎そのものではないかと想像が膨らみ、鉄斎の遊び心を感じ楽しくなります。
中国故事に画題を得た仙境図にも鉄斎の凄さを感じます。私は中国湖南省武陵源で、実際に仙境図に描かれているような風景を見ましたが、鉄斎は一度も中国の風景を目にすることなく古籍を学ぶことで、その風景を描いたのですから、逞しい想像力の持ち主です。
鉄斎の画には今、描いたような新鮮さを感じるのですが、それは生命力のある線と、余白が美しいからでしょう。墨一色で描いた「天保九如図」(左上の写真、菊池さんの右後)も墨の黒と余白が絶妙です。淡墨の部分に畳の目が映ってマチエールになっているのも意識してそれを生かしているのだと思いますね。
展示されている中で一番大きな一幅「竹窓聴雨図」には風の音を感じるというか、耳の不自由な鉄斎は音まで想像して描いていることに驚きました。
流派にはない自由な画。その魅力が無尽蔵なのは、鉄斎の画が上手下手という価値観を越えたところにあって、自己の宇宙を作り出しているからではないでしょうか。
現代の南画は日本南画協会の設立者のひとりでもある鉄斎に学ぶことが沢山あります。
私自身も鉄斎の画が一堂に集まった鉄斎美術館を初めて訪れ、鉄斎パワーに感動し、改めて画の本質を考える機会を得ました。
▲菊池享・1946年生れ。会社勤めの傍ら日本画、水墨画を描き、画歴35年。早期退職後、画のオリジナリティを目指し、新墨彩画研究会を発足、高島屋友の会カルチャーなどで講師を務める。大阪美術協会委員、(社)日本南画院同人、現代南画協会理事、関西俳誌連盟委員長、大阪俳人クラブ理事