ピアニスト 油井美加子さんと観る 「鉄斎 — 中国憧憬 —」

ピアニスト 油井美加子さんと観る   「鉄斎 — 中国憧憬 —」

 葉桜の後は美しい新緑へと変化する清荒神清澄寺。境内にある鉄斎美術館では「鉄斎-中国憧憬-」が開催され、中国の故事や逸話を画題にした鉄斎の山水画を中心に観ることができます。鉄斎が最も尊敬した宋代第一の文人、蘇東坡や中国の四大詩人のひとり陶淵明の人物画にも興味が誘われます。フランスに学んだ宝塚在住のピアニスト、油井美加子さんと、中国に憧れ、その文化を学んだ鉄斎の作品に触れ、中国の精神世界に浸りました。

描かれていない白の空間も呼吸している

 美術館めぐりは好きなのでフランスに留学していた時には近くにあった象徴主義、モローの美術館や印象派モネの美術館によく行きましたが、ギリシャ・ローマ神話をモチーフにその内なるものを描いたモローの絵と中国の古典を題材にその精神を描いた鉄斎の画に共通するものを感じます。
 鉄斎は実際に中国に行ったことはなく、書物や書画で中国の思想や文人の境地を学び、画に表現したというのですから、その向学心と好奇心には敬服します。鉄斎が尊敬していたという東晋の詩人、陶淵明と道士の陸修静、僧の恵遠が話に興じて笑っている「虎渓三笑図」(左上の写真、油井さんの左後)は俗塵を離れ、精神世界に遊ぶ文人の境地が窺え、相好を崩す三人の表情が面白く、観る者をほっこりとさせてくれます。墨も美しく印象に残りました。
 中国の紙に描かれた画、鉄斎が好んだ中国の裂で表装された当時のままの軸や子息の中国歴史学者、富岡謙蔵が、中国に渡った時に父親の為に手に入れた拓本や書物に拠る作品も観ることが出来ました。
 三国志を画題にした「孔明躬耕図」は劉備が訪ねてくる前、まだ孔明が晴耕雨読の生活をしていた頃の図だと聞き、親しみが湧きました。
 ピアノ演奏でも休符が大切なのですが、鉄斎の画は描かれていない白の空間が生きていて、そこも呼吸しているようです。フランス留学中に先生から、「練習はもういいから、五感を研ぎ澄ませて」と言われたことがあり、それからは、空気感を感じてもらえる演奏ができればと思っています。画でも演奏でも感動を与える表現というのは技術だけではなく、内なるもの、表現者のメッセージがいかに大事かということを改めて感じました。

ピアニスト 油井美加子さんと観る   「鉄斎 — 中国憧憬 —」

油井美加子・大阪音楽大学大学院修了。リサイタル、コンチェルト等の多数の演奏会やNHK・FMリサイタルに出演。エコール・ノルマル音楽院にてジェルメーヌ・ムニエ氏のもとで研鑽を積み、満場一致にてDiplôme Supérieur を取得。05年、パリにてリサイタル開催。大阪音楽大学教授。宝塚演奏家連盟会員

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