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雪組 愛原 実花

3月8日まで上演中の雪組宝塚大劇場公演は、赤十字思想誕生150周年 宝塚ミュージカル・ロマン『ソルフェリーノの夜明け-アンリー・デュナンの生涯』と、ショー・グランデ『Carnevale睡夢-水面に浮かぶ風景』の2本立て。 次回作で雪組トップスター水夏希とともに退団が発表された愛原実花。確かな役創りで、デュナンに出会って頑なな心がほどけていくアンリエットを丁寧に演じる。

ヒロイン、アンリエットを通して博愛の心を伝える

 「昨年の1月に宝塚バウホール公演『忘れ雪』で看護師役を演じました。まさか1年後に再び看護師役に巡り合うとは、まったく想像もしていませんでした」と、雪組トップ娘役の愛原実花さん。赤十字思想が誕生して150周年の今年、植田紳爾氏によるオリジナル・ミュージカル『ソルフェリーノの夜明け』が雪組で上演され、愛原さんはヒロインの看護師アンリエット役を演じている。イタリア独立戦争の最後の砦、ロンバルディア地方ソルフェリーノの野戦病院には毎日、4万人の負傷者が運ばれてきたという史実がある。舞台は1859年。オーストリア兵に両親を虐殺され、心を開こうとしない看護師アンリエットの前に、敵も味方も同じ命と語るアンリー・デュナンが現れる。広く知られているように赤十字はスイス人実業家アンリー・デュナンが創設し、彼は1901年に平和への大きな貢献が認められて第1回ノーベル平和賞を受賞している。

 「オーストリア兵は敵だから助ける必要はないと思っていたアンリエットが、水夏希さん演じるデュナンがどの国の兵士も分け隔てなく寝ずに看病する姿、その博愛の精神に心を打たれます。植田紳爾先生は、きれいなだけの宝塚ではなく、血も流すし惨い死体も出すが、アンリー・デュナンの大事なメッセージを雪組の力を結集して伝えるようにと。デュナンに出会って、頑なだったアンリエットの心がだんだんほどけていく様子をしっかりと演じたいと思います」 世界に戦争が絶えない今、本作品が放つメッセージの輝きが胸を打つ。

 愛原実花さんが植田紳爾作品に出演するのは研3の『ベルサイユのばら-オスカル編-』以来。少年アンドレを演じた。芝居を教える植田氏の言葉を聞き逃したらいけないと直感したという。

 「数をおっしゃる先生ではないので。緊張感のあるお稽古場です」

 4歳からクラシックバレエを習い、「自分の部屋でも一人、いつも踊っている子でした」という愛原実花さんが宝塚歌劇の舞台を目指すようになったのは、日本女子大学附属高校に入る直前だ。「高校に宝塚のクラブがあり、その活動に憧れました」 それがきっかけで、これまでずっと観てきた大好きな宝塚の舞台に、自分も立てるチャンスがあるかもしれないと気づき、1年間、受験のためのレッスンを積んで2002年、見事合格。04年、雪組公演『スサノオ』で初舞台を踏んだ。08年には新人公演やバウホール公演のヒロインに抜擢され、09年3月、新人公演2度目のヒロインを経て、7月『ロシアン・ブルー』『RIO DE BRAVO‼』で雪組トップ娘役に就任した。11月、全国ツアー『情熱のバルセロナ』のロザリア役で見せた透明感のある純真さには心が洗われるような気がしたものだ。ほころびのない集中力、洗練された無駄のない動きが美しさを倍増させる、貴重な娘役である。

 今年はどのような年にしたいですかという質問に「きちんと自分と向き合い責任を果たせる年に」と話してくださったのは、退団発表直前だった。期待が大きかっただけに惜しい思いが募る。退団公演は6月『ロジェ』(仮題)『ロック・オン!』。先に退団発表したトップスター水夏希との同時退団だ。3月8日まで大劇場で上演中の公演では、準主役スター彩吹真央がすでに退団を発表しており、今年はかけがえのないスターたちの舞台姿をしっかりと目に焼き付けておきたい公演が続く。

 ショー『Carnevale 睡夢』は、イタリア3大カーニバルの一つ、ヴェネツィアのカーニバルをテーマにした、稲葉太地の宝塚大劇場デビュー作。

 「前回の『RIO DE BRAVO‼』は爆発的な明るさでしたが、今回はロココ調でクラシカルな雰囲気です。私は最後に悪魔になる場面をいただいていますが、睡夢という副題のとおり、一瞬の夢のように感じていただけるショーになればいいですね」

 ショーの愛原実花さんは一人の舞台人、一人のタカラジェンヌとして魅せる。お祭りの火曜日、すべてが焼き尽くされて灰になる水曜日、夕日が沈んでお祭りが終わり、一日が終わるー。まるでタカラジェンヌ愛原実花の誕生と退団のドラマみたいに、観客たちは感傷的になるだろう。

愛原 実花さん

2004年『スサノオ』で初舞台、雪組に配属。08年『君を愛してる-Je'taime』新人公演で初ヒロイン。5月バウ・ワークショップ公演『凍てついた明日-ボニー&クライドとの邂逅-』でバウ初ヒロイン。09年『ロシアン・ブルー』よりトップ娘役。10年9月次回作『ロジェ』(仮題、東京宝塚劇場)で退団。東京都出身/愛称・みなこ、みか

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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