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宙組 北翔 海莉

4月17日から5月18日まで、宙組宝塚大劇場公演は、大人のラブロマンスが薫るミュージカル・ロマン『薔薇に降る雨』と、ロマンチック・レビュー・シリーズ第18作目となる『Amourそれは…』の2本立て。 伸びやかな歌声を筆頭に芝居・ダンスともバランスのとれた実力派スター北翔海莉、第95期初舞台生がデビューし宙組トップコンビがラストを飾る、春爛漫の舞台を盛り上げる。

宙組を実力で支える期待の男役

 前回、取材させていただいたのが月組時代の2005年9月、北翔海莉さんが研8の時だった。その約11ヵ月後に、初めての組替えで宙組に。さらに演技の幅を広げ、観る人の心を捉え続ける期待の男役である。

 月組時代の北翔海莉さんは3作品で新人公演主演を、宝塚バウホール主演も『恋天狗』『Bourbon Street Blues』と『想夫恋』の3作品で務めた実績をもつ。そんな実力ある北翔海莉さんの突然の異動。「組替えはどこかひとごとだと思っていました。育ったところにいたいと思うのは自然な感情で、驚きとショックとが一緒になったような気持ちでしたね。でも私は初舞台が宙組公演『シトラスの風』。その後、月組に配属になり、新人時代を大和悠河さんの下で勉強してすごしました。その大和さんが2003年に移籍し活躍されていたのが宙組。ならば、ついていこうと」

 その2006年、宙組は主演者を含めて主要スター4名中3名が他組から組替えしてきたばかりという前例のない新しさの中、熱いエネルギーが燃え盛っていた。こういう状況下では一般論として、迎える側にもさまざまな思いが交錯するものである。

「これまで宙組がつくりあげてきた組のカラーをきちんと引継いだ上で、新しい主演者を頂点とするピラミッド型を築かなければと、私なりに考えてすごく悩みました。でも結果的には、みんなの気持ちが見事に一つになり、今ではどの組にも負けない強い団結力があると自信をもって言えます」

 3代目主演コンビの退団公演『維新回天・竜馬伝!』『ザ・クラシック』で桂小五郎を演じたあと、新主演コンビ・大和悠河,陽月華のお披露目公演『A/L-怪盗ルパンの青春-』がシアター・ドラマシティで幕を上げたのが2007年3月。北翔海莉さんは名探偵シャーロック・ホームズ役だった。6月には宝塚大劇場での新生宙組披露公演『バレンシアの熱い花』『宙FANTASISTA!』がスタート。北翔海莉さんは伯爵ロドリーゴとフラメンコの歌手ラモンを、上級生との役替わりで演じた。そして11月、北翔さんにとって4度目の宝塚バウホール主演公演『THE SECOND LIFE』が開幕。主役ジェイク・アイアンはクールで気障なマフィア。凄腕の殺し屋が、ふとした出来事から真面目な青年と中身が入れ替わってしまうというミュージカル・コメディを、男役の魅力たっぷりに演じ、さらにピアニストとしての演奏も聞かせてくれた。次はどんな役者魂を見せてくれるのかなと楽しみに待っていたところ、なんと2008年7月、梅田芸術劇場メインホール公演『雨に唄えば』でリナ・ラモント役が巡ってきた。無声映画時代の看板女優リナはわがままな憎まれ役。だが作品の大きな鍵を握るキーパーソンだ。悪声ゆえに時代の流れに取り残されるリナ役を、女役初挑戦の北翔海莉さんは体当たりで演じ、人生の哀愁をも感じさせた。

 「男役も女役も、血の通った人間として舞台上でどう自分が描けるかという問題は全く同じだと思っています。与えられたことに対して、その時、自分が持っている力を出し尽くす、そのペースは宝塚に入った時から変わっていません。やれば必ずやっただけの結果が出ると信じていますし、勉強したことを披露する場があるのは私たちにとって1番の幸せ。日本を代表する伝統文化にお仕事として携わっていられることを誇りに思います。人生の中での宝塚時間というのは、本当に一握りの短いものです。その間、宝塚の北翔海莉としての使命をきちんと果たしたいと思っています」

 95周年の歴史をもつ宝塚歌劇の伝統を正しく継承しつつ、一つひとつの作品に溢れる思いをこめて、今の時代を体現する。

 今年2月、中日劇場公演『外伝 ベルサイユのばら―アンドレ編―』でアラン役を勇壮に演じた。「宙組のアンドレ編は男の友情が濃く描かれていて、男ベルサイユといえるものでした。アランが登場するのは2場面だけでしたが、花組公演『外伝 ベルサイユのばら―アラン編―』と台詞も演出も同じ。なんとかして宙組らしいものにしたかったのと、大和さんが突然、次公演での退団を発表されたので、まだ辞めないでください、と言いたい思いが入り混じり、大和さんと今の宙組にしかできない舞台をお届けしたいと強く思いました」

 4代目主演スター大和悠河と主演娘役・陽月華のサヨナラ公演『薔薇に降る雨』『Amourそれは・・・』が4月17日、宝塚大劇場で初日の幕を上げる。この公演で、第95期初舞台生が恒例のラインダンスを披露する。5月18日に千秋楽を迎えた後は、東京宝塚劇場で6月5日から7月5日まで上演される。その間、北翔海莉さんはヒロインの弟役に徹し、ひたすら姉を思い続ける。詩情豊かなロマンチック・レビューではさまざまな色の衣装に身を包み、艶やかに歌い踊る。そして…。

 今秋には次期主演スターを他組から迎える日がやってくる。宙組の伝統を土台に、再び新しいピラミッド造りが始まる。

「自分はもともと体が弱く、運動しちゃいけないと言われていました。そんな私に、がんばってごらんと宝塚音楽学校の先生が合格の丸をつけて下さった。そうしたら自分はもう、やるしかない。神様とか占いとかはよくわかりませんが、人間にはきっと、乗り越えられない試練は与えられないんじゃないか、これが自分の運命、宿命なのだと思いました。人間の体は鍛えたら強くなるものなんですよね。どんな困難も必ず乗り越えられると信じてやってきて、今、あの頃の自分には想像もできなかった人生を歩いています。芸事に100点はありませんから、いつまでたっても勉強ですし、試練も続きます。永遠にいろんなものを追求しながら、いつか卒業の時を迎えるのだと思います」

 トレーニングマシーンで鍛えられるのは一つの筋肉にすぎない。体全体の強さは精神力との化合物だ。80余名の出演者が一丸となって魅せる宝塚歌劇の舞台の上で、自ら輝きながら、他者をも光り輝かせる北翔海莉さんの人間力は、しなやかで強靭だ。大きな夢を見る勇気を与えてくれる。


北翔 海莉さん

1998年『シトラスの風』で初舞台、翌年月組に配属。2003年バウワークショップ『恋天狗』でバウ初主演、同年『シニョール ドン・ファン』で新人公演初主演。06年バウホール公演『想夫恋』でバウ単独初主演。同年宙組へ組替え。
千葉県出身/愛称・みっちゃん

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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