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雪組 凰稀 かなめ

3月13日から4月13日までの雪組宝塚大劇場公演は、風をテーマにした舞踊パフォーマンス『風の錦絵』と、全世界で大ベストセラーになった「怪傑ゾロ」のミュージカル、宝塚アドベンチャー・ロマン『ZORRO 仮面のメサイア』の2本立て。 抜群のスタイルと端正なマスクで注目を集める凰稀かなめ、ゾロの敵役・オリバレス総督を演じ、4月新生星組へ。

敵役に徹する美しきスター

 2008年5月、宝塚バウホール公演『凍てついた明日』の主役クライド・バロウを演じた凰稀かなめさんの、どの場面、どの一瞬を切り取っても絵になる美しさに、感嘆した。
 もちろん身体的な美貌だけではこうはいかない。役者としての説得力、内面を表現する男役の存在感があればこそなのだ。

 その前年、2007年10月、シアター・ドラマシティ公演『シルバー・ローズ・クロニクル』で演じた準主役クリストファー・クレムにも魅了されたが、これはヴァンパイアで、2006年『堕天使の涙』の新人公演主役ルシファーにも通じる、脱・人間役。男役・凰稀かなめの得意分野である。

 ところがクライド・バロウは実在したアメリカ人のギャング。「俺たちに明日はない」という有名な映画もある。しかも宝塚版では、クライドを信奉し行動を共にするジェレミーという主要人物を創作した。宝塚歌劇としては、相当やっかいな主役だ。
「どうしたらラフで、カッコよく見えるようになるのかと思い、スーツを着た男性の動作に注目しました。慕ってくれる子がいる役なので、貫禄も必要。単に年齢が若いだけの男性ではだめなので、落ち着いた後ろ姿や、ポケットに手を入れる仕草、周りにいる人たちの様子など、ずいぶん参考にさせていただきました」
 意外な着眼点だが、正真正銘、凰稀かなめさん自身の発想である。

 個性的な凰稀クライドを確立したのち、08年8月には『マリポーサの花』で切れ者のCIA捜査官ロジャーを演じ、今年1月、バウ『忘れ雪』で準主役、鳴海昌明に扮して宝塚歌劇95周年のスタートを切った。

「はじめは鳴海君と自分の性格は正反対だと思っていましたが、お稽古半ば頃から、遊び人の部分以外は、持っているものが似ているなと思うようになりましたね。たとえば、自分の心の奥には鳴海君と同じように、恋人と落ちていくという感情がある。でも現実の自分は口に出して言えない。すごく繊細なんです。自分のことは自分が1番わかるって言いますが、私は自分のことが1番わかりにくかった。頭で考えることと心で思うことが逆の場合が多くて、その狭間に落ちてもがき苦しむ状態がずっと続いていたように思います。宝塚に入り、多くの人と出会い、さまざまな役と出会い、このたびの鳴海役を通して、自分自身の本心を直視できた結果、気づいたことがたくさんあった。おかげで少しは自分を素直に認められるようになったかなと思います」

 心の奥で燃えているのは、凰稀かなめさん自身のエネルギー、熱いマグマだ。理性的な頭との、激しい戦いが、豊かな芝居心を刺激する。

「3月13日から始まる雪組宝塚大劇場公演『ZORRO 仮面のメサイア』でオリバレスという総督役を演じます。民衆にとっては悪人ですが、根っからの悪ではなく、職務上の熱意があってのこと。作・演出の谷先生には、役に徹して雪組のみんなに嫌われて去っていけと言われました」

 すでに発表されている通り、4月14日付けで凰稀かなめさんは星組に移籍することが決まっている。入団10年目の、この時期での組替えを、凰稀かなめさん自身が聞いたのは『忘れ雪』のお稽古中だった。どんな思いで受け止めたのだろう。
「ちょうど自分自身が変わりたいともがいている最中だったので、雪組の人たちと別れるのは寂しいですが、新しいことにチャレンジするチャンスをいただいたと気を引き締めて有難くお受けしました」

 星組の新主演スターに決定している柚希礼音率いる新生星組での初お目見えは、6月26日から始まる1本立て大作『太王四神記VerⅡ』。凰稀かなめさんは雪組大劇場公演を最後に、短い休みをとり、星組公演の稽古に入る。

「星組移籍前の雪組公演の一つ、舞踊パフォーマンス『風の錦絵』で久しぶりに轟悠さんとご一緒させていただきます。轟さんから最初にいただいたアドバイスの言葉を今でも覚えています。初舞台後、初めて雪組の組子として出演した東京の1000days劇場公演『凱旋門』で代役に入った私を、轟悠さんが見ていてくださって、『手首までしか意識がいっていない。指の先まで気をつけなさい』と。主演男役さんなのに見ていてくださるんだ、がんばらなきゃ、とうれしかったですね。思えば両親の勧めで入った宝塚ですが、自分はやっぱり舞台が大好きなんだなと、他の組の公演を見るたびに思います。宝塚の生徒として、いろいろなことを学んで、最近ようやく自然体でいられるようになりました。これから、もっと厳しいことに直面するでしょうが、過ぎてからよかったなと思えるように、人としても、舞台人としてもしっかり成長していきたいと思います」

 多くを語るわけではないが、少ない言葉にも誠実さが滲む。孤高の美しさの中に、ぽっと火が点ったような温かさがある人だ。その火に照らされて、観客の心は感動にうち震える。

凰稀 かなめさん

2000年『源氏物語あさきゆめみし』で初舞台、雪組に配属。05年『霧のミラノ』で新人公演初主演。06年バウ・ワークショップ『YoungBloods!!』でバウ初主演。07年世界陸上大阪大会にあわせて結成されたユニット・AQUA5のメンバー。09年4月14日付で星組へ組替え。
神奈川県出身/愛称・てる、かなめ

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
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