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星組 涼 紫央

2月6日から3月9日まで上演中の星組宝塚大劇場公演は、『My dear New Orleans』-愛する我が街- とレビュー・ファンタスティーク『ア ビヤント』の2本立て。 宝塚歌劇と歌劇ファンをこよなく愛し、理想の男役像を追求する涼紫央が、星組トップコンビのラストステージを盛り上げる。

夢の世界へいざない続けるスターに

 宝塚歌劇95周年の第二弾は、星組主演スター安蘭けいと遠野あすかのサヨナラ公演、『My dear New Orleans』―愛する我が街―と『ア ビヤント』の二本立てである。トップのラストステージは宝塚歌劇の中でも特別、感慨があるものだが、3年前の取材でキュートな笑顔を絶やさず、よどみなく話してくださった星組の涼紫央さんが、今回は憂いを湛えた美しい横顔を見せて静かに話し始める。

「退団者が多く、寂しい気持ちでいっぱいですが、私の務めは最後まで楽しくすごしていただくこと。宝塚という人生の最も華やかな活動期を共にすごした人たちとの思い出は宝物です。かけがえのない一瞬一瞬を胸に刻みつけ、しっかりと見送りたいと思います」

 涼紫央さんは初舞台を踏んだ年に星組生になり、今日まで4人のトップスターを見送ってきた。学年が上がり、舞台での活躍が広がるにつれて、送る側としての責任は確実に重くなっているはずなのだ。

「いえ、責任ということでは、これまでも同じようにやってきました。宝塚では、みんな、いつかは去る日を迎えます。だからこそ笑顔で送りたいし、それが見送る者の使命だと思っています」

 そのMusical『My dearNew Orleans』で涼紫央さんが演じているプロデューサー、アルバート・ジョーダン役は、ご本人いわく、自分としてはあまり経験のない、わりと「硬い役」ということなのだが、一言で言うと仕事ができ実績もある大人の男性役だ。

 これまでは確かにソフトでさわやかな好青年の役が多かった涼紫央さん。02年『ガラスの風景』のポール・シモンズは世間知らずのお坊ちゃん風だったし、05年、宝塚バウホール主演公演『それでも船は行く』のジョニー・ケイスは育ちのいい御曹司だった。06年『愛するには短すぎる』のプロデューサー役、マクニール・オコーナーも、『ヘイズ・コード』のヘンリー・リッチも明るくてさわやかな青年。07年、博多座公演『シークレット・ハンター』で演じた情報屋セルジオも快活だったし、韓国公演や全国ツアーで演じた『ベルサイユのばら』のオスカルとジェローデルは、言うまでもなく文句なしの白い役。記憶に新しい『THE SCARLET PIMPERNEL』のアンドリュー・フォークスも物腰の柔らかい心の温かな青年だった。

 だが、もちろん涼紫央さんは悪役も激情的な役も経験済みである。07年『エル・アルコン―鷹―』のエドウィン陸軍将校は復讐心を燃え滾らせていたし、05年『長崎しぐれ坂』のらっこは尾張無宿の凶状持ちという凄みのある役。03年『王家に捧ぐ歌』のサウフェにしてもテロリストだった。もう一つ、忘れられないのが01年、新人公演『花の業平』で演じた藤原基経。この2番手役のキーマンは冷酷な策士だった。

「悪役をやってみたいとずっと言い続けてきたのですが、私は伝統的な男役を観て育ってきたので、正統派を目指すべきなのかなと思い始めた頃、ファンの人たちからも同じ内容のお手紙をいただき、ファンの皆さんが喜んでくださるものを演じられるようになりたいと、いろんなアンテナを張りながら勉強するようになりましたね。今回のアルバートは安蘭さん扮するジョイ・ビーの音楽性を見出して温かく育てていきます。ジェイもアルバートも自分の夢に向かっていく人。誰でも夢を抱きますよね。夢を見ることで生まれてくるものはすごくいっぱいあると思います。私は宝塚に出会ったから舞台に立つ夢を抱きました。舞台に立ってからはいろんな役と出会い、次はこんな役を演じたいなという夢を見てきました。出会いがあるから、夢も生まれるんです」

 ニューオーリンズの貧民街でジェイはジャズに出会い、アルバートはジェイの歌声に出会った。出会いがないと夢も生まれない。

「突然、チャンスが訪れるよりも、やっと一つ夢が叶ったと思えるほうが、私は何倍もうれしい。思いもよらないことが起こるより、願い続けてきたことが叶うほうが、人生おもしろいと思いませんか」

 たとえ対象物を見ても、出会いを感じる心がなければ、夢も生まれようがない。涼紫央さんの豊かな感受性、向上心、探究心こそが夢の原石なのだ。

「宝塚歌劇を初めて観たとき、絵本のようにきれいな世界だなと思いました。人間っぽくなく、生活感もなく、食べ物も食べていないような人たちだと。そう思っている人がすべてだとは思いませんが、自分では、そうありたいと願っています」

 時代と共に、男役像、女役像も変わってきた。100周年に向かって歩み始めた宝塚歌劇が、伝統を生かし、現代性を取り込んで、永遠に観客を夢の世界にいざない続けるためには、涼紫央さんのように、生活感から遥かに遠いスターの復活が望まれる。

涼 紫央さん

1996年『CAN‐CAN』で初舞台、星組に配属。2002年『プラハの春』で新人公演初主演。03年バウ・ワークショップ『恋天狗』でバウ初主演。05年『それでも船は行く』でバウ・ホール公演主演。06年琵琶奏者エンキとコラボレーションライブ。
大阪府出身/愛称・とよこ

インタビュアー 名取千里(なとりちさと)
ティーオーエー、現代文化研究会事務局/宝NPOセンター理事主な編著書「タカラヅカ・フェニックス」(あさひ高速印刷)「タカラヅカ・ベルエポックI・II」(神戸新聞総合出版センター)/「仕事も結婚も」 (恒友出版)
宝塚の情報誌ウィズたからづか

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