梅雨の晴れ間に緑が映える清荒神清澄寺。境内にある鉄斎美術館では6月21日から企画展「鉄斎-粉本に見る学びの跡Ⅱ-」が開催されています。粉本とは画の習得には欠かせない摸写や絵手本類のことをいいますが、鉄斎にとっての摸写は技法や筆法、構図、色彩などの習得だけでなく、画家や画題への興味が中心にあるようです。画に添えられた覚書などにそれが見て取れます。 伊藤若冲、長谷川等伯、田中訥言、小田海僊など様々な流派の画家から多くを学んだことがわかります。梅田にあるワイアートギャラリーのオーナー、樋口佐代子さんと前期展示を鑑賞、鉄斎の学びの跡を辿りました。
日本画の中でも粉本だけに特定した展覧会は珍しいものです。摸写というと少々面白みに欠けますが、好奇心の旺盛な鉄斎の摸写は技法習得のためだけでなく、画題や筆者への興味と尽きぬ探究があることが見て取れ引き込まれていきます。
日本各地の名所旧跡や歌枕に因んだ絵図も多く、鉄斎が何に関心を持ち、独自の画法を極めていったのかがわかり、私の中で摸写のイメージが変わりました。
展示の最初と最後は鉄斎が画家として尊敬していたという伊藤若冲の摸写ですが、「龍図」には原画のパネルと摸写、鉄斎の本画「昇天龍図」(左上の写真、樋口さんの右後ろ)が展示されていて、緻密で美しい筆の若冲と自由奔放で大胆な筆の鉄斎の違いを比較して見ることができます。
一番、興味を惹かれたのは、摸写と関連資料が合装されているもので、このコラボレーションは鉄斎ならではのユニークさでしょう。
幕末の勤王家、板倉槐堂が投獄された時のスケッチ風の「老槐墨戯図」の摸写と槐堂から鉄斎に宛てた書簡の合装、呉春筆の「与謝蕪村像」の摸写と鉄斎が蒐集していた蕪村自筆「こがらしや何に世わたる家五軒」の短冊の合装。歌人であり『雨月物語』が名高い「上田秋成像」の摸写と秋成自筆原稿の合装は秋成展に貸し出されたそうです。
鉄斎は摸写においても自由ですね。
私は多くの人に美術館に関心を持ってもらえるよう展覧会だけでなくワークショップの企画もしていますが、鉄斎の画を見て参加者が自分の詩や俳句などを賛のように書く、というのも楽しいのではないでしょうか。子どもに興味を持ってもらえそうです。型にはまらない鉄斎の画や人生観は、子どもにサジェスチョンを与えてくれると思います。
樋口佐代子・1937年大阪生まれ。広告代理店の文化事業部に約20年間勤務後、97年に美術展企画会社㈱わい・アートを設立。03年ワイアートギャラリーを設置し、現代作家の企画展を開催している。