画家 岸本吉弘さんと観る「鉄斎の粉本―本画にいたる道―」

画家  岸本吉弘さんと観る「鉄斎の粉本―本画にいたる道―」

 清荒神清澄寺を囲む全山が新緑に萌え、薫風そよぐ五月。鉄斎美術館では「鉄斎の粉本ー本画にいたる道ー」が3回にわけて8月2日まで開催されています。  構図や筆法を学ぶために古人のすぐれた画を貪欲に摸写した鉄斎。遺されたおびただしい数の粉本は本画にいたる道のりを知る上で欠かせない資料となっています。  神戸大学大学院で教鞭をとり、抽象画を描く宝塚在住の岸本吉弘さんと展覧会を鑑賞、あらゆる流派、あらゆる分野の作品を写した粉本から鉄斎が何に興味を抱き、何から画題を得たか、を辿りました。

鉄斎の魔力にはまる

 神戸から宝塚に移り住んで、まだ2年半なので清荒神も鉄斎美術館も初の体験です。

 昨年、東京国立博物館で開催され、話題になった「対決 巨匠たちの日本美術」に長谷川等伯vs狩野永徳が観たくて行ったのですが、鉄斎vs大観で観た富士山図には引き込まれてしまいました。美しい大観の画に比べ、鉄斎の富士は存在感があり、魔力を感じました。清荒神清澄寺所蔵ですから、ここでまた観る機会があると思うと嬉しいですね。

 粉本といわれる摸写は初めてですが、自由奔放で力強い鉄斎ならではの水墨画が確立されるまでには、緻密な山水画や花鳥画、大和絵、狩野派、琳派など多くの古画を写していたことに驚きました。初公開の絵図、「越中立山図」(1回目展示)や鉄斎が実際に甲州旅行をした時にスケッチした覚書のような「古宇津の山道図巻」(1回目展示)もあり興味を覚えました。本画「古うつの蔦の細道図」を観てみたいです。

 本画が展示されているものでは86歳の時に描いた「東坡煎茶図」が粉本の「高士煎茶図」(1回目展示、左上の写真岸本さんの後方)と並べられていましたが、構図は似ていても高士が中国宋の文人、蘇東坡になり、茶碗を持つ手の描き方も変えられていて、鉄斎が原画の何を自分のものとしたか、また、何から画題を得たかを想像するのは粉本展の楽しさかもしれません。ポスターになっている「勾白字詩七絶」(3回目展示、右上の写真)も粉本と本画が展示され、鉄斎流のアレンジが新鮮でした。

 私は抽象が持つ純粋性に惹かれ、空間性を横に広がるストライプで表現していますが、それは、子どもの頃、習字で何本も書いていた一の線が原点になっているのかも知れません。鉄斎が胸中を画に表したように、内なる思いを自分というフィルターを通して表現していければと思っています。

画家  岸本吉弘さんと観る「鉄斎の粉本―本画にいたる道―」

▲岸本吉弘・1968年神戸生まれ。94年武蔵野美術大学大学院修了、98年文化庁芸術インターンシップ国内研修員、01年大和日英基金によりロンドンにて制作。個展、グループ展多数。09年8月1日~30日岡山・奈議町現代美術館にて個展。10月3日~11月23日兵庫県立美術館にて「神戸ビエンナーレ」。現在神戸大学大学院人間発達環境研究科准教授。武庫山在住

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