国際交流協会理事長 加藤啓子さんと観る 鉄斎―先賢を画く―

国際交流協会理事長 加藤啓子さんと観る 鉄斎―先賢を画く―

 春光をうけ池苑の鯉が水面を跳ねる清荒神清澄寺。鉄斎美術館では3月11日から5月6日まで、「鉄斎 ―先賢を画く―」が開催され、春の陽気と共に多くの人が訪れています。鉄斎が敬慕する人物、神仏を画題とした人物画は肖像画の域を超え、その人物の事歴を詳しく調べ確かな考証のもとに画かれました。山水の中に画かれた人物であっても記された賛から人物がわかり興味をそそられます。  宝塚市の国際分野を担うNPO法人国際交流協会理事長の加藤啓子さんと展覧会を鑑賞、人物画の奥に秘められた文人鉄斎の胸中に触れ、人物画の面白さを堪能しました。

「先賢」は「先見」でもある

 宝塚市国際交流協会の情報コーナーに昨年から鉄斎美術館のチラシも置いてありますが、デザインが美しくて目を引きます。「鉄斎―先賢を画く―」のチラシも「東坡帰院図」(上の写真)と「隠逸畸人図」(前期展示)の一部が配され印象的だったのでどんな画か実物を観るのが楽しみでした。鉄斎が尊敬する池大雅ら8人の人物が夫々の特徴を持って表情豊かに描かれ、一人ひとりに添えられた草書の和歌も趣があります。

 初公開の作品が数点あり、その一つ、大鳥神社大宮司時代(明治10年頃)の鉄斎の肖像画(擦筆画)を見ることができたのは大きな収穫でした。髭を蓄え仙人のような晩年の鉄斎の写真は書物でも紹介されていますが、若き日の鉄斎は珍しく新鮮でした。表装はひし形の中に肖像画を配したとても斬新なもので遠州好みといわれるものだそうです。

 八曲一双屏風の「赤穂義士像」(前期展示)
も四十六士一人ひとりの表情が特徴的に捉えられ人間臭さがにじみ出ていて鉄斎らしい人物画です。忠義は日本人の好きな題材ですが、鉄斎も忠義・忠孝をテーマとして多くを描いていますね。

 初公開の「松花堂幽居図」(前期展示)は小ぶりの軸ですが、大自然の中に身を置き隠棲している人物、松花堂昭乗が描かれ、墨の黒と緑青が美しい作品です。松花堂所用の墨を用いて描いているのも鉄斎の人物考証と言えるのかも知れません。また、鉄斎は中国宋の文人、蘇東坡に傾倒し多くの人物画を遺しているそうですが、東坡が神海宮に祈ったところ蜃気楼が現れたという故事を描いた「東坡観海市図」(前期展示)など、鉄斎の作品には物語があって、それは未来に向けて発信されているメッセージのようでもあり、「先賢を画く」は「先見を画く」のように私には思えました。

 「万巻の書を読み万里の道を行く」を旨とした鉄斎の知識に裏打ちされた人物画は見ごたえがあり、鉄斎の人間的な大きさを再認識させられました。

国際交流協会理事長 加藤啓子さんと観る 鉄斎―先賢を画く―

▲加藤啓子・1943年生。英国及び南アフリカに6年間家族で在住後、帰国子女の親の会「Kidsの会」を発足、87年宝塚市国際交流協会設立発起人として関わり、国際交流活動に努める。04年同会がNPO法人格を取得、08年(特)宝塚市国際交流協会理事長に就任。同年同会創立20周年事業を開催

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