宝塚文化財ガイドソサエティ代表 杉本和子さんと観る「鉄斎—多彩な画題・多様な画風III—」

宝塚文化財ガイドソサエティ代表 杉本和子さんと観る「鉄斎—多彩な画題・多様な画風III—」

新緑がまぶしい清荒神清澄寺。境内の大銀杏や楓の鮮やかな緑、鉄斎美術館前にある淡墨桜の若葉が目を楽しませてくれます。同館では6月29日まで「鉄斎ー多彩な画題・多様な画風IIIー」が開催され、万巻の書を読み、万里の路を行き、そこに画題を得た鉄斎の哲学を知る作品が年代順に展示されています。前宝塚市議会議員で現在宝塚文化財ガイドソサエティ代表を務める杉本和子さんと、多彩な画題を山水、人物、花鳥、仙境、仏画など多様に描きながら、画家とは一線を画した鉄斎の特異な芸術を鑑賞しました。

多彩な画題は鉄斎が次代に伝えたかったこと

美術館に行くと心が癒されるので疲れている時によく足を運びます。鉄斎美術館にも企画展ごとに訪れた時期もありました。議員時代には地元の歴史・文化を知るための郷土史研究会で、館長さんにも講演に来ていただきました。千点以上のコレクションを持つ鉄斎美術館は歌劇とともに宝塚から世界に発信できる貴重な文化ですから、宝塚の財産としてもっと認識すべきだと思います。美術館では土曜日に展示解説会が行われているそうなのでぜひ、訪れてほしいですね。私も学芸員の方の解説を聞き、画題を掘り下げることができ興味が深まりました。

この展覧会には普段あまり鑑賞することが出来ない30、40歳代の作品も数点展示されていて、晩年の自由奔放な筆づかいとはちがったピュアな画もすばらしいと感じました。30歳代に描いた四幅の「四季山水図」(前期展示)や鉄斎が敬愛する宋時代の文人、蘇東坡を画題として初めて描いた「蘇公泛舟図」(前期展示)は淡い色調で代赭が美しい作品です。

明治7年、39歳の時、北海道を旅行した鉄斎がアイヌの生活や祭りを画題に描いた作品は、そこに描かれている民具や筆録「北遊日記」も展示され、鉄斎が愛蔵していた民具からも自然と共存するアイヌへの親愛の情が窺えました。

私が特に素晴らしいと思ったのは、墨の濃淡やにじみが美しい「読書立志図」(前期展示)です。墨の使い方を熟知している鉄斎だからこそ描けた作品といえるでしょう。賛には唐の韓退之がその子符に読書を勧めた詩「符、書を城南に読む」があり、読書を何よりも重んじていた鉄斎が、若くして亡くなった息子謙蔵の遺した子(孫)たちへの思いを重ねたのではないかとうかがい、次代を育てようとする鉄斎の気持が伝わってくるようでした。鉄斎が画題としたものはモラルを失おうとしている今の時代にこそ見つめ直したい心の世界ではないでしょうか。そして、次代に伝える大人の役割の大切さをも認識させてくれました。

宝塚文化財ガイドソサエティ代表 杉本和子さんと観る「鉄斎—多彩な画題・多様な画風III—」

▲杉本和子・関西学院大学文学部英文科卒業。ラボ教育センターチューター、ものがたり文化の会・宝塚を主宰し子どもに文化を伝える活動を続ける。51歳の時、仏教大学通信教育で学芸員の資格を取得。1995年から宝塚市議会議員を3期務める。現在宝塚文化財ソサエティ代表

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