真夏に美しく咲く紅白の百日紅が、清荒神清澄寺にお参りする人々の心を和ませてくれます。 鉄斎美術館では夏の恒例ともいえる「鉄斎の粉本―画想の源泉・摸写・―」が開催され、師を持たなかった鉄斎が画の構図や画技を学んだという多彩な分野・様式の摸写が展示されています。原画のパネルや本画が展示されている作品もあり、見比べると鉄斎の胸中を想像することができ興味がつきません。 宝塚や芦屋の風景を描いた絵はがきが評判を呼んでいる画家、井上正三さんと展覧会を訪ね、摸写を超えた鉄斎ならではの粉本を楽しみました。
粉本というものを初めて観ましたが、私がイメージしていた摸写とは全く違うものでした。原画を見て写したり、薄紙を敷いて透き写したというのに筆に躊躇がなく、原画の線のタッチを写し取っているのは驚きです。写す時、鉄斎はその一瞬に画の構図や筆致を捉えていると思われますね。それには、画のバックボーンになっている画題や作者のことをちゃんと研究し、消化していなければならないでしょう。
鉄斎は万巻の書を読んだといわれていますが、その蓄積の中から摸写の対象が生まれ、好奇心の趣くままにあらゆる分野、様式の画を写したのが鉄斎の粉本であり、技法を学ぶだけの摸写ではないことがわかります。芸術的評価を得た晩年まで摸写をしたというのは探究心が衰えなかった証でもありますね。権威に媚びず常に創作に意欲的で新しいものに挑戦する姿勢が粉本からも見て取れ、心が動かされました。
また、粉本を観ると描きたいものだけを描いているのがわかります。スケッチもその場で感じたものを描きたいところから描く。そして、いかに省略するかなんです。沈南蘋の「草花群禽図」(前期展示)を写した画は草花は写さず鳥だけを克明に写しています。摸写とは思えないスピード感のある筆です。
展覧会のポスターにもなっている初公開の中国・顔輝筆「魁星図」は一稿と二稿(右上の写真、前・後期展示)があり鉄斎の作品「魁星図賛」(左上の写真・井上さんの右後方、前期展示)がこれら粉本から生まれたことが解るように展示され、興味が深まりました。
掛軸は上から下へ、また下から上に物語が描けるキャンバスだという再発見もあり、多いに刺激を受けました。
▲井上正三・1994年に絵はがきシリーズ「風のたより」を出版、宝塚阪急で「阪急沿線スケッチ絵はがき原画展」を毎年開催。2003年から1年間ウィズたからづかの表紙絵。油彩展や水彩画展を各地で開催。現在、JR西日本・ジパング倶楽部を始め、西宮、芦屋で水彩画教室を開く。芦屋在住