放送記者 大谷邦郎さんと観る「鉄斎の大和絵」

放送記者 大谷邦郎さんと観る「鉄斎の大和絵」

白い花びらが散りぎわに淡墨色を帯びる艶麗な淡墨桜。鉄斎美術館の前に植えられた気品ある淡墨桜が春爛漫を感じさせます。鉄斎美術館では5月13日まで、鉄斎作品の中では珍しい大和絵にスポットをあてた「鉄斎の大和絵」展が開催され、日本の神話や風景、歴史を大和絵の手法によって、美しい色彩で描いた作品が展示されています。中国故事を画題に独自の山水画を数多く描いた鉄斎ですが、自身の画室には大和絵の襖を設えていたといいます。山水とは全く趣の異なる大和絵。春にふさわしい色鮮やかな鉄斎の大和絵を、朝のラジオ番組を担当している放送記者、大谷邦郎さんと春の気分で鑑賞しました。

鉄斎の中には伝えたい思いが一杯ある

「鉄斎の大和絵」では日本的な珍しい作品に出会え、鉄斎の意外な一面を発見できた気がします。鉄斎のイメージというと、何か難しそうで、その哲学者のような風貌もちょっと近寄りがたい感じがあったんですが、大和絵の印象は全く違いましたね。春のイメージというか、色彩も鮮やかで、特に紅の色が美しく、鉄斎がこの紅を入れている姿を想像したりして鉄斎をとても身近に感じることができました。

鉄斎にとって大和絵は余技とは言わないまでも、遊びの要素が強かったのではないでしょうか。だからこそ楽しいとも言えますね。

鉄斎は賛という形で画の由来などを必ず書いていますが、大和絵に書かれているのは漢文ではなく、かな混じりですから読むこともできて、親しみが持てました。画題は日本の行事や風景、歴史、人物など鉄斎らしく多彩で、中でも平安時代から続く、宮中の行事を描いた双幅「大嘗会図・釈奠図」(右上の写真・前後期展示)や芭蕉の奥の細道に題材を得た「蕉翁乗馬図」(前期展示)、楠正成の妻が夫と子を弔うために河内の山中に庵を結び戦死者の冥福を祈ったといわれる庵の跡を描いた「楠妣庵図」(左上の写真大谷さんの右後・前期展示)は大和絵らしい作品です。主題は書物から学び、蓄積した鉄斎の引き出しの中にあるのですから、画はまさに想像の賜物ですね。

大和絵は五十歳代に描いたものが多いそうですが、九十翁の落款がある吉野の桜を描いた美しい大和絵に、いつまでも遊び心と好奇心を失わない鉄斎を見た様な気がしました。

鉄斎の中には伝えたいものが一杯あって晩年までその熱い思いは変わらなかったのでしょう。私は落語や講談など日本の話芸が好きで若手を支援したいと活動を続けているのですが、文化を伝えるには熱く語ることしかない、と思っています。だから、鉄斎が伝えたい思いを画や書に託して九十歳近くまで熱く表現したことにとても共感しました。

放送記者 大谷邦郎さんと観る「鉄斎の大和絵」

▲大谷邦郎さん
1961年堺市生れ。84年毎日放送入社。経理局を経て報道局にて記者として活動、経済番組などを制作。2001~02年朝の情報番組でニュース解説を務める。03年ラジオ局へ移り、現在はラジオ局報道部・部次長として朝の番組「はやみみラジオ!」を担当。05年「関西唯の人」を出版。

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