初詣の人並みが参道から境内へと続く1月の清荒神清澄寺。15日から鉄斎美術館では新年にふさわしい吉祥がテーマとなっている「鉄斎の祝慶画」が開催されています。中国故事にみる子孫繁栄や不老長寿の画、鉄斎が理想とした仙境図、また寿老人などさまざまな神や仏を描いた画が大きく3つに分けられ展示されています。 宝塚出身で博物館学芸員から落語家に転身した林家染左さんとお正月の展覧会を鑑賞、長寿を人生最大の喜びとした鉄斎の画が放つメッセージと、衰えを見せない鉄斎の好奇心に心を動かされました。
子どもの頃は図書館に行って、荒神さんの参道のお店を覗きながら、鉄斎美術館で画を観るというのが、遊びのコースでした。子どもは百円で入館できるのでいい遊び場でしたね。もっともその頃から落語好きの変わり者でしたが。
昔ながらの参道、山に囲まれた境内、神聖なお寺、その奥にある鉄斎美術館という「和」の空間が好きで、今も惹かれます。
鉄斎の画は芸術作品にありがちな押し付けがましさがなく、自由な気持ちで観ることができます。
鉄斎といえば、私は60歳以降の仙境図を思い浮かべるんですが、祝慶画として展示されていた「蓬莱遷境図」(前期展示・左上の写真染左さんの右)はその一枚。色づかいやバランスがまさに鉄斎のものになっている。普通の感覚ではないですね。
72歳で描いた双幅の「寿山福海図・神仙採薬図」(前期展示)も面白い作品です。仙人の足の裏に亀が描かれているのにも何か意味があるんでしょう。鉄斎は万巻の書を読み勉強したといわれ、多くの書物や資料が残されているそうですが、謎解きのようにそれらを紐解く面白さもあると言えるのではないでしょうか。
大黒さんと布袋さんがすごろくをしている「大布放賭図」や晩年の大津絵風の傑作といわれる「七福遊戯図」(共に前期展示)に描かれている双六盤は正倉院にも収蔵されているものと同じで興味を惹きました。僕は噺家になる前、2年ほど博物館の学芸員をしましたが、日本の伝統文化に接する仕事がしたかったからなんです。
鉄斎が描く水墨の世界、庶民を描いた落語の世界を通して「和」の精神が伝えられていけば、と思います。
▲林家染左さん
1971年宝塚市生まれ。大阪大学文学部(日本史学)卒業後、泉佐野市職員。96年退職し、四代目林家染丸に入門。めふ乃寄席を始め、関西を中心に活動。第44回なにわ芸術祭落語部門新人賞受賞、07年1月、06年にオープンした天満天神繁昌亭の高座に上る。