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〈アトリエ訪問〉画家・岸本吉弘—人間の等身大と向き合いたい—

〈アトリエ訪問〉画家・岸本吉弘—人間の等身大と向き合いたい—

抽象画の純粋性に魅かれて

先日、残暑のなかを西宮市郊外にある岸本吉弘(1968年生まれ、宝塚市在住)のアトリエを訪ねた。机上に整然と並べられた絵筆群。室内の壁には制作中の画布が貼られ、数脚のイーゼルに架けられた小品たちも岸本を待っているようにも見えるし、寄せ付けないようにも見えるアトリエ。油絵具の匂いとともに張り詰めた気の流れを感じた私。

さて岸本は、子どもの頃から実家(神戸市)が文房具店だったこともあり、絵を描いたり、プラモデルを作るのが好きだったそうだ。3歳の頃、祖母に習字を勧められる。「初心者が、練習のために漢数字の一を沢山書いていくとストライプ模様になるでしょう。それが何故か好きで」と当時を振り返ってくれた。私はこの話を聞きながら、この経験が現在の作品に見られるストライプと関係しているかも知れないと思った。

高校卒業後上京し、武蔵野美術大学油絵学科に入学。だが、アカデミックな雰囲気に飽き足らず、アブストラクト風デッサンを描くなどで反発。更に一時は、インスタレーションや映像などの表現も試みている。その頃、アメリカの作家ジャクソン・ポロック(1912〜56)に影響を受けている。「抽象が持つ純粋性への憧れみたいなのがあったんです」と。

2000年、縁あって神戸大学発達科学部の専任講師となる。

図版「“S.T.〟2007」について、「〈空間性〉は、僕にとって大事な要素です。奥行は浅くて、左右に広がっていく空間性。視線が奥に吸い込まれていくのではなく、左右に散っていくように」とストライプへの拘りを語ってくれた。

岸本作品を特徴づけている色彩である深い青と緑が、静謐な画面を造出している。また作品には、人間の等身大を基調とする創作哲学が、岸本の内なる思いをして造形言語となり、画面では岸本の身体を濾過し、色彩とストライプの領域となって表現されている。今後の新たなる展開に期待したい。

伊丹市立美術館 宮ノ前 072(772)7447

岸本吉弘 プロフィール
1968年 神戸市生まれ
1994年 武蔵野美術大学大学院修了
1998年 文化庁芸術インターンシップ国内研修員
2001年 大和日英基金の助成によりロンドンにて制作
個展・グループ展多数
神戸大学発達科学部准教授 宝塚在住

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