美術評論家・針生一郎氏は、森本紀久子さん(宝塚市在住)の絵画について「森本紀久子の作品は、プリミティヴな生命力の饗宴であるとともに、ユートピアへの幻想である」と評している。
昨年、年も押し迫ったある日の午後に、大阪のラッズギャラリーへ針生一郎氏の講演と森本さんの個展を観に赴いた。講演会のなかで針生氏は、森本さんと初めて出会ったのが1963年、金沢市での第2回「北陸中部日本展」の初日だったそうだ。なんと森本さんは、金沢市立美術工芸大学彫刻科の四回生で、平面作品に取り組み、大賞に選ばれたのだ。
その大賞について針生氏は「極彩色の植物や動物を思わせる形態を、模様のように画面いっぱい敷きつめたもので、それでいて単なる装飾性に終わらないぬけぬけとした不気味さとユーモアがある」と印象を述べている。
さて私は、今回初めて写真図版(左側)のような森本さんの立体作品を観た。サイケデリックな極彩色で軟体生物のようなフォルムを、模様のように布置している。作品上部の殆どが凹状のように設えられた呪術的な形態には、一見棺のようでもあり、存在と不在の関係の色彩を濃く帯びている。本展では、改めて森本さんが今までの平面作品を単に立体化しているのではないことが窺えて興味深かった。
20年位前に、森本さんは自己の制作姿勢について「道草が、私の“産み〟の姿で私の創造姿勢なるものなのかも知れない」と語っている。紆余曲折しながら、作品制作に道草を活かしている森本さんの姿勢は、今も一貫している。こんなところから、色んな強烈な色彩による生物形態の想像力が涌出してくるのだろう。
今もなお独自の土俗的な世界を創造している森本さんの今後の展開が楽しみである。
森本紀久子(宝塚市在住)プロフィール
1940年大阪市生まれ
59年私立雲雀丘学園高校卒業
60年金沢市立美術工芸大学彫刻科入学
62年第1回北陸中部日本展入選
63年第48回二科展に《エバナタウ1》を初出品し特選となる
第2回北陸中部日本展大賞受賞
64年金沢市立美術工芸大学彫刻科卒業
第1回長岡現代美術館賞展招待
65年 「現代美術の動向」展(京都市美術館)に出品
82年第5回ジャパンエンバ美術コンクール優秀賞受賞(エンバ中国近代美術館)
87年四天王寺国際仏教大学教授に就任
その後、数多くの個展やグループ展に発表し今日に至っている