過日私は、宝塚市在住の工芸家・堀之内千惠子さんから〈人形の世界~祈りの中に~〉と題した京都での個展案内をいただいた。その案内には「1998年、インドへ旅した。初めての海外旅行がインドだった。行ってみて驚いた。そこは不可思議な、そして神秘的な国だった。そして2000年、引き寄せられるようにまた訪れた。広いインドで最初に訪れた時に出会った少年と再会した。腕を失った瞳の美しい彼は随分お兄さんになっていたが、相変わらず物売りをしていた。それが悲しくて・・・彼の絵葉書を買い、帰りのバスの中でポロポロと涙が溢れた」と述懐している。
このインド旅行が、シルク・ロードシリーズの契機となっている。そのシリーズの作品名には、楼蘭という言葉の響きに魅せられたこともあり、楼蘭という言葉が多く見られた。
さて、工芸のなかでも人形制作は、殊に奥が深く、総合芸術とよくいわれている。そんなこともあり、堀之内さんは努めて日本画、陶芸、彫刻、染色などにも意欲的に取り組んでこられた。さらに近年、『源氏物語』を読む会や茶道にも参加し、日本の伝統文化に触れることで、工芸としての人形創作へ有形無形に活かしている。
堀之内さんの人形づくりは、桐粉とのりで桐塑をつくり、人体を造形し、和紙あるいは布を貼り、胡粉を幾度となく塗っている。その過程では、「手芸でなく現代工芸をめざすのだ」と自問自答しているのだそうだ。そして作品には、「内面的な静けさのなかに、芯の強さを表現したい」と言葉をつづけた。
人体を独自のデフォルメに試行錯誤を繰り返し、新しい表現を模索している堀之内さん。素直な想いと“宇宙のリズムの生き方"を理想としている姿勢から誕生する堀之内さんの人形世界に期待したい。