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「臨界(川面の表と裏ー街)」栩山 孝(とちやま たかし)さん(宝塚在住)

「臨界(川面の表と裏ー街)」栩山 孝(とちやま たかし)さん(宝塚在住)

「川の絵画大賞展」は、兵庫県加古川市が「水と緑を活かしたまちづくり」事業の一環として1997年から全国公募として行っている絵画展である。清流文化都市・加古川市に流れる加古川は、兵庫県内で最も長く、随一の流域面積がある川でもある。その全国公募展で、宝塚市在住の栩山孝さんが大賞を受賞された。受賞作は「臨界(川面の表と裏—街)」である。

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大賞「臨海(川面の表と裏ー街)」

審査員の一人である岩城見一・京都国立近代美術館館長は、次のように栩山さんの作品を講評している。「写真を基礎に色が薄い層を成し、それらの色が相互に透過するように塗られ、さらに窓ガラスのやや不透明で文字のような跡の残る面、そしてそれを通してぼんやり見える夜景の川面の反射、この重層的なイメージの対比が巧みに捉えられ、しかも鉛の窓枠がそれらのイメージを引き締め、この金属特有の表情が遠い記憶、雰囲気を喚起し、画面は郷愁さえ呼ぶものになっている。(後略)」

先日私は、暑い昼下がりに展覧会場である加古川総合文化センターを訪ねた。受賞作「臨界(川面の表と裏—街)」は、画面上に素材である鉛を窓枠のように布置し、内と外の世界を茫洋に表現している。また、窓の外に見える幻影のような夜の街の川面に映る光景には、作家独自の境界表現が窺える。と、ともに、この鉛の窓の内と外の構成が生む虚と実の関係性にも魅せられる。作品を熟視していると、沈思黙考のなかに、遠い記憶が川面のネオンのように点滅している自分に気付かされる。最後に作家に一言。今後もより一層自然観照に、作品を介して自己を追求することを望みたい。

文・坂上義太郎
前伊丹市立美術館館長

伊丹市立美術館 宮ノ前 072(772)7447
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