私は、作家の個展を観るとき、作風が年齢とともにどう変遷するのかに興味があります。
今回の企画は仙境をテーマに、鉄斎の20代から最晩年の89歳までの作品を、年代順に紹介しているので、作品の変化がよくわかります。鉄斎の作品は若い頃よりも60歳以後が私は好きです。画と書の師匠を持たなかった鉄斎は中国の山水画を独自の作風で描き続けました。中国に一度も行かずに筆と墨で憧れの理想郷を求め続けた陰には、莫大な書籍を読み、勉強した苦労と努力がよく判ります。20歳代から60歳までの40年間は俗塵を離れ自然の中にやすらぎの桃源郷を求めていますが、60歳からの晩年は鉄斎が化身の仙人が登場して語ります。山水画は円熟味を増し、実に力強く、より写実的で私は感動を受けます。
そして、仙人の表情が穏やかで可愛らしく面白い顔をしている。ふと、榊莫山さんの寒
山拾得の若い僧を連想したのは私だけでしょうか。
仙人が不老不死の仙薬を完成してほくそ笑んでいる「壺天図」(前期展示)や仙人が一堂に集まっている「群僊集会図」などはとても、70、80歳代の人間の作品とは信じられません。他のいかなる作家にもない独学独歩で極めた鉄斎だけの仙境の世界です。
実は、私も師匠を持たずに中国桂林の水墨画をこの十数年間で6500点描いています。桂林の山、河、人家、船をテーマにしています。プロの画家に「程さんは桂林というテーマを早く見つけられて良かったですね。多くの画家はテーマが見つからずに苦しんでいるんですよ」と言われたことがあります。
鉄斎が単なる山水画を脱して仙境という理想郷を最後の作品にしたのが解るような気がします。鉄斎の偉大さに打たれて会場を後にしました。 |