役を演じる、ということは、生身の自分が試されることだ。
自分自身に一本、筋が通っていないと、芸名の彩吹真央も、役の人物も、生かすことができない。彩吹真央さんは気負いのない口調で、そう言う。そして自分が試される局面は、この世界ではたくさんある。98年、雪組から花組に移籍した時もそうだった。
「雪組での4年間、一緒に舞台に立つのが当たり前のように和気あいあいとやってきたメンバーと別れて、花組に来たとたん、さあ、やってごらんと言われたみたいな気がしました。今までのようにノンビリしていてはいけない、雪組で勉強したことを花組で生かせなければ、と新しい気持ちになりました。その頃から新人公演で準主役の役どころをさせていただけるようになり、ダンスだけでなくお芝居もやりたいなと思っていたので、すごくうれしかったですね。だんだん本公演でも役を頂くようになり、ショーでも責任あるところに立たせていただいて、とてもやりがいを感じています」
男役が充実している花組で、どれだけ輝けるか。挑戦できるおもしろさを感じている毎日だ。
どういうわけか、位の高い役が多い。新人公演で初めて演じた主役が「源氏物語 あさきゆめみし」の光源氏。次の新公主演も「ルートヴィヒU世」。
本公演では「エリザベート」のルドルフ。
そして今回、「野風の笛」で豊臣秀頼である。宝塚大劇場公演からさらに1ヶ月間の稽古を重ねて、彩吹真央さんは豊臣秀頼の短い命を輝かせている。
「秀頼として芝居をするのが一場面だけなので、その場面に至るまでの生い立ちや、淀殿との親子愛、千姫への愛など、秀頼の人生をお見せできるよう、しっかりと演じたいと思います」
このシーンは専科の轟悠が演じる主役・松平上総介忠輝が、不戦の誓いを交わした友の秀頼を戦火の直中にある大坂城に訪ねて別れの盃を交わすという、物語が終焉に向かって大きくうねり出す重要な場面だ。
「雪組時代に、男役の先輩として兄のように(笑)慕ってお世話になった轟さんと、秀頼が忠輝を兄のように信頼している気持ちがオーバーラップします。久しぶりに会えた喜びが滲み出ていればうれしいですね」
小学6年生の時から子どもアテネに通っていた彩吹真央さん。母娘二代の宝塚ファンだった。ファンが抱く夢は、自分の夢でもある。
「夢を見ていただく仕事であることを、後輩たちに伝えていきたいです。といっても私自身はどちらかというと、時代の波を取り入れるタイプ。でも伝統の良さは伝えていかないと。39人揃って初舞台を踏みましたが、退団者が多くなり、寂しいです。私はここで、できるかぎりのことを全うしたい」
力溢れる言葉が美しい。
インタビュアー
名取千里(なとり ちさと)
(ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局
/宝塚NPOセンター理事
主な編著書
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)
「仕事も!結婚も!」(恒友出版) |
TAKARAZUKA
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