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-バックナンバー- 2003年5月号

 名取―今春の月組公演 『シニョール ドン・ファン』 の舞台衣装を日本を代表する世界的デザイナーの、 コシノヒロコ先生がデザインしていらっしゃって、 130点のオート・クーチュールが見られます。 どういう経緯で実現したのでしょうか。
コシノ―昨年、 私が関わっている着物ショーに紫吹淳さんが出演されたのがキッカケです。 紫吹さんとは初対面でしたが、 その後、 私のゲストハウスで小さなパーティをした時に、 春にファッションデザイナーの役を演じるということを聞き、 これは私がやるしかない、 と思ってしまったのです。 つまり私は宝塚歌劇に1番近いところに住んでいるデザイナーなんですよ。 関西の経済界が元気を取り戻すためにも、 これから宝塚歌劇にはもっと世界に向けて発信していってほしいと願っています。
植田―非常にタイミングがよかったというか、 現代のミラノのファッション業界を舞台にした話なので、 劇団の方でも従来の舞台衣装デザイナーではなく、 モード系のファッションデザイナーの方でどなたか、 とリサーチをかけていたところ、 幸運にもコシノヒロコ先生にデザインしていただけることになって、 本当にありがたいと思っています。 正直なところ130点にも及ぶ衣装を提供していただけるとは思っていませんでした。
コシノ―新しくデザインしたのが30点ほどあり、 あとはコレクションの中からふんだんに使っています。 決してコシノ・ファッションを押しつけるつもりはなくて、 宝塚の魅力を引き立てる、 ファンにとってうれしい仕事をしたいと思いました。 何と言っても 「先生の洋服が着たい」 という紫吹さんの一言がキッカケで急に決まったことなので、 2ヵ月間の余裕しかなかったんですよね。 同じことを一からやると、 1年はかかってしまいます。
名取―着こなし方のセンスの良さでも際立っている紫吹淳さんですが、演出家としてはどのような魅力を感じていらっしゃいますか。
植田―紫吹淳は、もともとクラシックバレエができる強みがあってオーソドックスな男役をやっても美しいですが、他の人が真似できない独自の個性があります。本人は常に挑戦していきたいと言っていて、演出する側としては、そこに新鮮さを感じます。
コシノ―そう、だからこそ、先生、やって、という言葉が自然にほとばしっちゃったのね。ファッションをやっている人間は感覚的に行動するんです。言葉も非常に感覚的です。私は彼女よりも年上ですが、同時に同じことを考えて、同じような行動に走ってしまったわけで、二人の感覚がピタッときちゃったのね。彼女はプライベートでも非常にファッショナブルですから、そのセンスの良さがいい形で仕事に生かされていると思いますよ。
名取―それにしても短い期間で場面に合わせたデザインをされるのは、ご苦労も多かったのではないでしょうか。

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