これまで何度も取材をさせていただいたが、
花總まりさんからうかがった言葉で印象に残っているものは多い。 トップ娘役として最高の輝きを放ち続ける花總まりさんから 「階段を上るのをやめたら私はここにいられません」
という言葉を聞いた時は、 胸を打たれて言葉をなくしてしまった。 内容の重みと共に、 言葉を発する際の表情や声のトーンなど、 それらが醸し出す雰囲気の麗しさも胸に刻み込まれて、
こういう人を真に美しいと形容するのだ、 とつくづく思ったものである。
今、 宙組の娘役トップ花總まりさんの麗しさには、 誰も及ばない。
新人公演の初主役スカーレットに始まり、 額田王、 エリザベート、 カルメン、 マリー・アントワネット、 トゥーランドットなど、
花總まりさんが宝塚歌劇の舞台で演じた美女は数多い。 どの役も、 それぞれに女性たちの憧憬の的である。 その花總まりさんが、 勇壮なジャンヌ・ダルクを演じている。
男装の美少女という点では宝塚歌劇 『ベルサイユのばら』 のオスカルと似ている。 フランス愛国者であるのも同じ。 だが、 ジャンヌは男の子として育てられたのではなく、
神のおつげを受けたと深く信じて甲冑に身を固め、 救国のための軍を率いるのだ。 イギリス軍を撃破し、 オルレアンを奪還するが、 最後には邪教徒として焚殺の運命を辿る。
時代は15世紀、 イギリスとの百年戦争末期の動乱時代だ。
「ジャンヌ・ダルクをさせていただくと聞いた時は、 また誰もがよく知っている女性の役だし、 魔女裁判にかけられて火あぶりになったというすごく強い女性のイメージがあって、
ああどうしようと思ったのですが、 原作の 『傭兵ピエール』 を読むと、 そうじゃない部分もあることがわかりました。 純真な少女だったんだな、
かわいいなあと感じました」
ジャンヌ・ダルクは、 いわゆる成熟した女性ではなく、 神々しいまでに清らかな聖女と称されている。 そんなジャンヌだが、 宝塚グランド・ロマン
『傭兵ピエール』 〜ジャンヌ・ダルクの恋人〜では、 一人の女性として恋に悩むという知られざる一面に着目し、 フランス傭兵部隊の青年指揮官ピエールとのラブ・ロマンスを描いている。
「石田昌也先生の台本は、 政治の世界を突き詰めるというよりは、 傭兵たちとジャンヌとの感覚のズレを重苦しくなく描いてあります。
ですから、 神託を受けたと信じて戦うジャンヌの一途な思いをどこまで出せばいいか、 そのあたりに難しさを感じています。 出しすぎてもいけないし、
出さなくても軽くなってしまう。 先生のイメージに近づけるよう努力していますが、 自分のやっていることがどう見えるのかということは、
自分だけではわからないことがあります。 やはり先生はじめ、 和央さん、 上級生の方々に教えていただかないと辛いものがありますね」
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