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-バックナンバー- 2002年9月号

宙組宝塚大劇場公演 『鳳凰伝―カラフとトゥーランドット―』 で水夏希さんが演じているのは、 もと王子で今は盗賊の頭のバラク。
 戦いに敗れ国を滅ぼされた境遇は同じでも、 異国のトゥーランドット姫の謎かけに命を賭ける、 もと王子カラフの熱い生き様に心を打たれたバラクは、 未来をカラフに託して鮮烈な死を遂げる。
  「バラクは台本を読んですぐにイメージが湧き、 骨太で豪快な人物として演じたいと思いました。 ポスターをごらんになって悪役ですかと聞かれるのですが、 盗賊なので善良な人間ではないけれども、 全くの悪人というわけではなくて、 無駄な血は流すなという大原則が根本にあるんですよ。 正統派男役からちょっとはみ出すくらいの勢いでやりたいなと思っています。 これからは男役・水夏希としても無色透明ではなく、 色や香りのある舞台人にならなければいけない。 それには相当やってちょうどいいくらいだと思うので、 できるだけ濃厚な演技を目指しています」  端正な、 オーソドックスな男役を演じてきた水夏希さんが、 バラク役では本物の水槽を使った大立ち廻りで毎回、 ずぶ濡れになる大活躍ぶりだ。 水夏希さんの身体のバランスの良さは、 まるで足の裏にマグネットでもついているかのように安定している。 細くしなやかな身体は、 時に舞台の板からまっすぐのびた一本の若い樹木のように見えることさえある。 男役としてもっと体重を感じさせる芝居をしたいと言っていた新人時代の課題は、 見事にクリアしている。  「たぶん意識改革が必要だったんだと思います。 自分の課題に気づくことは大事だけれど、 気づいたあとはあまり気にしないこともすごく大切だと思うんですよ。 今の私の目標は、 『役の人物を演じる』 のではなく 『役の人物である』 という状態に近づくことです。 芝居をする、 演技をするというのは、 自分の感情とちがうところで、 どこか嘘になってしまうような気がするんです。 だからこそ、 その人であるというところでやっていきたい。 それと、 やっぱり宝塚らしくいたいなと最近、 特に思いますね。 よく言われているように、 宝塚歌劇の良さは現実の男性が言ったら嘘になるようなことをサラッと言ってしまえるところじゃないかと思うので、 お客様がひととき、 現実を忘れてリフレッシュできる舞台をお見せしたいと思っています」
 そんな水夏希さん自身が宝塚歌劇の脚本を書くとしたら、 どんなテーマを選ぶのだろう。
  「ある雑誌に 『欲望という名の電車』 のブランチに対する女性の意見が載っていて、 理性を失うような恋を一度はしてみたい、 イエスかノーかという問いに、 イエスと答えている人が多かったんですよ。 実際にはなかなかできないと思うから一度は経験してみたいわけですよね。 自分にはありえないことだけれども、 観ていてすごく共感できるようなドラマチックな恋物語が宝塚でやれたら楽しいなと思います。 そういう愛憎の世界で、 自分はもちろん男役がやってみたいんです」

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