「あるかたが、芸術家はいつも子どもの心で夢をみていなければいけない、と言われたんです。それだからこそ人に夢をあたえられるんだよと。もし、いい子ぶっていたら、型に嵌った芝居しかできないだろうし、
想像力も弱くなる。もともと宝塚の生徒はみんな純粋で子どもの心をもっている人が多いので、どんな状況になってもそれをなくさないでほしいです。誰でも自分のことは大事です。でも相手の心を思いやる気持ちをもたないと芝居はできない。人間はいつだって人と人の中で生きているのですから」絵麻緒ゆうさんが抱いている、トップとしての使命感が伝わってくる言葉だ。
ショー『ON THE 5th』のラストで、絵麻緒ゆうさんは出演者全員を率いてタップを踏む。絵麻緒ゆうさんの靴音が、みんなの靴音に重なり、一つになって劇場いっぱいに響き渡る。その中を緞帳がゆっくりと下りてくる。大きな羽根をつけたレビュー形式の大階段パレードは、この前にある。
このショーのテーマはニューヨーク五番街だ。街のスター Mr.フィフスの絵麻緒ゆうさんはインディアン娘シャインの紺野まひると出会い、恋に落ちる。つかの間の恋の喜びのあと、再会を約束して故郷に帰ったシャインの死を予感させるように、ビルにSEPTEMBER
11の文字が灯る。テロの犠牲者への祈りの歌と、平和を願う群舞。幻のツインタワーが聳え立つと、シャインが中から走り出てくる。ショーの生命は、この中盤のシーンで一気に燃え上がる。フィフスの絵麻緒ゆうさんの悲しみの表情は極めて美しい。男役・絵麻緒ゆう自身が顔を上げ、前を向き、魂で泣いているからだ。男役を泣き顔で演じられるスターは、そうはいない。男役・絵麻緒ゆうは、夢ものがたりを生きながら、本物の夢を見続け、心の傷から血を流してきた。絵麻緒ゆうさんの喜びの表現にあたたかい真実味があるのも、そこに理由があるのだろう。
インタビュアー
名取千里(なとり ちさと)
(ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局
/宝塚NPOセンター理事
主な編著書
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)
「仕事も!結婚も!」(恒友出版) |
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