雪組の新トップ絵麻緒ゆうさんが
『追憶のバルセロナ』『ON THE 5th』を最後に宝塚を退団する。惜しいスターがいなくなる、とつくづく思う。
絵麻緒ゆうさんは「大人になりたくない」という言葉をはっきりと使える人だ。大人が、大人になりたくないというのだから、そこには山ほどの命がけの思いがあるはずである。
ディーンを演じた時は「誰かと一緒でないと一人では言えない、できない、という人が多いが、ディーンはそれができた。彼くらい自分に正直に生きたいと、強く思った」と言っていた。私は絵麻緒ゆうさんが演じた
『WEST SIDE STORY』のリフや『我が愛は山の彼方に』の武人チャムガが特に好きだが、ほかにも『エリザベート』のルドルフ、『黄金のファラオ』のセイタハト、『花の業平』の梅若、『猛き黄金の国』の坂本竜馬など、忘れがたい役は思い出すときりがない。
「『追憶のバルセロナ』で演じるスペインの貴族フランシスコは、占領軍に屈せず信念を貫いて生きていく役。自分の生き方に重なる気がしてやりがいがあります。心の奥の感情を言葉に出して説明してしまわずに、『ああ』とか『うん』の感動詞だけで大切に伝える部分は、むずかしい反面、これがうまく言えたら役者としてもっと舞台が楽しくなるだろうなと思いますね。自分はたぶん、
もう二度と男役をすることはないだろうから、16年間積み上げてきたものをきっちり出していこうと思っています。今までたくさんの役を演じてきましたが、まだほかに宝塚の男役としてやりたいことがあるかと聞かれたら、ないわけではありません。やろうと思えば、まだいろんな人物に出会ってみたい思いはある。でも、退団が自分と劇団との話し合いでのけじめというのであれば、それをまっとうしたいと思います」
絵麻緒ゆうさんは初舞台の年に星組に配属になって以来、準トップになるまで星組を離れたことはなかった。2000年6月1日、新専科に異動し、01年2月に初めて雪組公演に出演した。そして9月、専科から雪組に移籍。同時に雪組の新トップスターへの就任が内定し、02年3月のシアター・ドラマシティ公演『殉情』からトップとしての活躍が始まった。
「雪組に配属になるとは想像していませんでした。新専科になった時点で、自分の立場はこれからどうなるかわからないなと思っていたんです。でも私は、雪組に来て本当によかった。雪組生は新しい仲間を受け入れる姿勢があったかいんですよ。雪組に来た当初はトップの轟悠さんとはTCAでご挨拶したことがあるくらいでしたが、
いろんな話をするようになって、すごくあったかい人だということがわかりましたね。思いやりがあって正義感が強く、轟さんの存在自体が人の支えになる、そんなかたです」
その轟悠が新専科に移り、雪組トップに就任した絵麻緒ゆうさんだが、その披露公演を観ると、全く力みがない。主役を演じる以上の主張は、幕が下りるまで一切、見られないのだ。それでいて周りを圧倒する男役の芸に溢れている。
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