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-バックナンバー- 2002年10月号

 宝塚歌劇団の生徒の中で新人と呼ばれるのは、初舞台を踏んで7年目までの人たちである。新人スターたちはその間、本公演以外に、先輩たちが本公演で演じる役を自分たちだけで演じる新人公演に出演して、舞台経験を積み重ねる。
 新人公演は本公演期間中、一度公演されるだけだが、本公演では見られない大胆な抜擢が行われることでも話題が尽きない。これまでの最短は入団した年に主演した例。でも、これは異例中の異例だ。  
 月組の大和悠河さんの場合、1995年に星組公演『国境のない国』で初舞台を踏み、同年、月組に配属されると、97年の新生月組披露公演『EL DORADO』の新人公演で主演した。たった2年で、本公演ではトップスターが演じる主役に抜擢されたのだから、大和悠河さんがどれほど期待を集める新人だったかがわかる。もっとも宝塚音楽学校の卒業公演でも主演した注目の人だから、新公主演は待ち望まれていたわけだが、その美しさと舞台度胸のよさで見事につとめあげて、 期待通りの大型新人であることを実証した。
 その同じ年、宝塚バウホール公演『ワン・モア・タイム!』では、先輩の成瀬こうきとダブル主演し、その後も『West Side Story』『黒い瞳』『LUNA』『愛のソナタ』『大海賊』など4年間に、なんと5作品の新人公演で主演。バウホール公演でも『シンデレラ・ロック』『十二夜』『更に狂はじ』など3年連続、3作品で主役を演じる活躍ぶりだ。
 こんなふうに早くから主役経験が群を抜いている大和悠河さんだから、2002年1月、新人公演卒業後の第1作に当たる『ガイズ&ドールズ』で準主役のネイサン・デトロイトを演じた時は、待ってました!、と心の中で叫んだものである。
 コスチューム物もバツグンに似合うが、スーツをすっきりと着こなす姿の良さと、生まれながらのスターなのにとりすましたところが少しもなく、大劇場の広い舞台の上で後ろを向いていても全身が観客に語りかけてくる親しみのある感じが、大和悠河さんの身上だ。
 そして8月23日に始まったミュージカル・ロマン『長い春の果てに』で、主役ステファンの悪友ブリスを演じている大和悠河さん。
 「この物語に描かれている人物はみんな、心に傷を持っているんです。その傷が、あることをキッカケに、それぞれ再生されていく。テーマは命の重みとやさしさ。ふだんは忘れがちだけど、ちょっとしたやさしさをもつのは気持ちがいいことなんだと伝えたいですね」
 舞台は現代のパリ。トップスター紫吹淳が扮する脳外科医ステファンは、手術で有望な女優を死なせてしまい、 今は死体専門の解剖医をしている。そんなステファンと大和さん演じるブリスは連日、連れ立って夜遊びに耽っている。ブリス自身、旅行作家になる夢に向かって踏み出せず、旅行会社で納得できない仕事を続ける毎日なのだ。

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