入団して10年目を迎えた貴城けいさんは、この夏、宝塚バウホール公演『アンナ・カレーニナ』に出演し、初めて口ひげをつけた。
ひげは新人公演で一度、つけたことがあるそうだが、「その時は何がなんだかわからないまま終わってしまったので」、カレーニン役が初めてといっていいのだそうだ。
ひげをつけると口をあまり動かせないので台詞を喋りにくいのだが、それ以上にむつかしかったのが、落ち着いた大人の男性を演じるということ。
「自分の引き出しの中にない役でした。カレーニンは感情を表に出していくタイプの役ではないので、身体の中でしっかりと役の気持ちを感じておかないと、お客様に何も伝わらなくなってしまいます。10年目を迎えた今、新たな役に挑戦させていただき、とても勉強になりました。次の舞台では、これまで積み上げてきたものをどんどん出して行きたいなと思っています」
そう言って笑顔になった貴城けいさんは、11月12日まで宝塚大劇場雪組公演『愛 燃える』―呉王夫差―と『Rose Garden』に出演中だ。
この公演を最後にトップスターの轟悠が専科に移籍し、もと星組で専科の絵麻緒ゆうが新トップに就任する。
男役スターにとって「10年目」は、勝負の年だ。前回の取材から5年。久しぶりに聞く貴城けいさんの言葉には、打って出る気迫が感じられる。「新人時代は忙しくて、本公演と新人公演、バウホール公演と三つも稽古が重なったことがありました。時間的な余裕は今の方があるかもしれませんが、自分は時間があればあるだけ使ってしまうタイプ。舞台は絶対に、これでいいということはないので、今の自分にできる最高のところまでは必ずやりたい。みんなが努力をしているので、自分が特別努力家というわけではありません。たぶん不器用だから人の何倍も努力をしないと同じ土俵に立てないと思うんです。だからいつも余裕がない。ただ初日が近づくと、ある意味でふっきる様に心掛けます。稽古場で見えなかったことが舞台にのるとたくさんわかってくる。その中で成長できるという確信が、舞台経験を重ねると芽生えてきますね」
貴城けいさんの足跡を振り返ると、『この恋は雲の涯まで』で初舞台を踏んだ1992年は、旧・宝塚大劇場が『忠臣蔵』で68年間の歴史を閉じた年だった。なつかしいB5版の『忠臣蔵』のプログラムを開くと、最終ページに研究科1年の貴城けいさんの素顔が同期生13人と共に載っている。
貴城さんはその時からずっと雪組だ。97年に新人公演『仮面のロマネスク』に初出演したが、これは旧・東京宝塚劇場での雪組公演ラストの舞台だった。その後も『真夜中のゴースト』『春桜賦』『浅茅が宿』の新人公演で主演した。2000年になると、明智光秀を描いた『ささら笹舟』で宝塚バウホール公演初主演も果たした。
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