9月6日、貴城けいさんはこの特別な公演で退団することを発表した。来年1月2日から2月12日までの東京宝塚劇場公演が男役・貴城けいの最後の舞台になる。 「新人公演を卒業する頃に、自分はどんな男役になりたいのかと考えました。その頃、周りの方々から、宝塚らしい伝統的な男役と言っていただくことが多くなり、自分はその方向に進んでいったほうがいいのかなと。その上で、今の時代に生きる宝塚の生徒として、今の時代のお客様に共感していただけるように、いろんな役ができるようになりたいと考えてきました。宝塚に入らなかったら、これほどたくさんの愛をいただくことはなかったと思います。長い間、雪組で過ごし、星組と月組に特別出演し、最後に宙組に来て、新たな仲間と出会い、その仲間が気持ちよく迎えてくれて、もり立ててくれる。宝塚では人とのつながりや、人の心のあったかさをすごく感じますし、それによって自分が成長してこられたなと感じますね」 貴城けいさんは1996年、初演『エリザベート』の新人公演でルドルフを演じた。新公の初代ルドルフ役者なのだ。97年には、新人公演で初めて主演し、その『仮面のロマネスク』のヴァルモン子爵役を、当時研6だった貴城けいさんは次のように語っている。 「それまで経験がなかったラブシーンが山のようにあって、男役としての色気や雰囲気を出すのが難しい上に、心に仮面をかぶっているので言っていることと本音が違う。それでも何が本当か、お客様にわかっていただかなければいけないので、本当に難しかったです」 この舞台は旧・東京宝塚劇場での雪組公演最後の新公だった。当時、宝塚に入ってよかったこと、という質問にも「おこがましい言い方ですが、夢を与えられること。私ががんばっている姿を見ると、嫌なことがあってもがんばれますというお手紙を頂くと、自分はそんな人間じゃないって思いながらも、やっぱりうれしい。もっとたくさん夢をもって、お客様に少しでも夢を見て頂けたらなと思います」と初々しい言葉が返ってきた。 あれから、さらに数年が経ち、05年11月、貴城けいさんは、3度目のバウホール主演公演『DAYTIME HUSTLER』でローレンス役と出会った。元教師で、今はエスコートホストのローレンスが一人の女性に出会ったことで再び人を愛せるようになっていく物語だ。「あのときの客席の空気感は忘れられません。これまで味わったことのないものでした」 身体が震えるほどの、舞台と客席の強烈な一体感、とでも表現すればいいのだろうか。言葉少なく語る分、感じ続けたものは味わい深かったにちがいない。稀有な出会いを得て、新たな自分を発見したと感じたが、終わったあとで振り返ると、はたして自分になかったものだったか、ただローレンスのような役を演じたことがなかっただけかもしれない、と考えるようになったそうだ。汲めども尽きぬ宝塚的男役の才を、あと、たった一公演で封じ込めてしまうのは、実に惜しい。 「うれしいことも、悲しいことも、全て自分に必要なことだったのだと思います。いろんな経験をしたことで、人に対して大きな気持ちをもてたり、今までとは違った考え方ができるようになり、人間としての幅が拡がりました。乗り越えられたのは、周りの方々が支えてくださったから。頂いた励ましや愛に感謝して、きちんとお返ししたい。そのために今の私ができることは、お客様が楽しんでくださる舞台をつとめること。ファンの方にいただいた愛は退団しても一生、心の宝物です」 最後の男役の勇姿を、しっかりと目に焼き付けておきたい。
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▲グランド・レヴュー『ザ・クラシック』 |
※次号は、新春スペシャルインタビューとして 演出家、植田紳爾さんの予定です。
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