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-バックナンバー- 20006年8月号
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フェアリーインタビュー
生まれながらの娘役・桜乃彩音さん。だが初観劇したのは意外に遅く、中学のとき。岡山から母と一緒にバスツアーで訪れた宝塚大劇場で、宙組公演『エリザベート』を観た。「こんな華やかな世界があるのかと、すごく衝撃を受け、学校の宿題のこともすべて忘れて、舞台の世界に見入ってしまいました。子役を演じているのは本当の子どもで、宝塚は小さい頃に選ばれた人達がお稽古している劇団なんだと思いました。ですから、まさか自分が受験できるとは考えもせず、できるならもう一度観に来たいと思いながら帰ったのです。その1年後に、たまたま春の合格発表の模様をテレビで見て、自分にも受験するチャンスがあることを知り、将来、受験すればよかったなと後悔するよりは挑戦してだめだったら諦めようと」
 
待望の初舞台は2002年4月『プラハの春』。同年5月、花組生になった。

03年5〜7月『野風の笛』では千姫を、同年10月の宝塚バウホール公演『二都物語』では早くも初ヒロインを演じ、04年1月『飛翔無限』での後見役は、「すごく緊張する毎日でしたが、春日野八千代先生のそばで勉強させていただく幸せな機会を与えていただきました」
 
その大劇場公演初日、衣装が絡むトラブルがあったが、「春日野先生が、あなたのせいじゃないから大丈夫、と。心の大きい、素晴らしい方だと感動致しました」
 
新人公演での初ヒロインは05年3月『マラケシュ・紅の墓標』。過去のある人妻役に挑戦し、「とても大人っぽい役なので、演出の先生に、この機会に大人の役作りを勉強するようにとご指導頂きました」

同年9月、春野寿美礼のコンサートに出演後、11月『落陽のパレルモ』新人公演でもヒロインを演じている。
 
06年3月、シアタードラマシティ公演『Appartement Cin´ema』から花組トップ娘役。現代的なアイドル女優アンナの飾り気のない心情の発露を、生き生きと演じて、新鮮な魅力を放った。
 
さて『ファントム』第1幕の後半、カルロッタの罠にかかり、舞台上で突然、声を詰まらせたクリスティーヌ。彼女を助け出し、地下の隠れ家に連れてきたファントムは、人生の束の間の幸せを感じていた。そのとき、クリスティーヌは愛にあふれた声で「My True Love」を歌い出す。私の真の愛を受け止めてー 仮面の奥に秘められた真の姿を見せてー
 
ファントムは拒むが、天使のような歌声に促されて、やがて仮面をとる。
 
原作には、ファントムの仮面の下は人の顔というものではなかったと書かれている。
 
従来の宝塚歌劇では描かれなかったであろう絶望が、ファントムに襲いかかる。だが、この名作はファントムに天使の心を与えた。「My Mother Bore Me」
“愛という名の無邪気さゆえの過ちか−君を愛し求め続ける 僕のクリスティーヌ”と歌い上げる。
 
クリスティーヌが純真であればあるほど、胸が抉られるように辛い場面だ。
「これから、どんなときも春野さんについていけるように、そして横にいて邪魔にならず、私なりの花を添えられるように。そのために、もっともっと勉強して、素直な気持ちで心を磨いていければ」
 
フィナーレで舞う、春野寿美礼とのデュエットダンス。二人の動きは水の流れのようにやわらかく、美しい。桜乃彩音さんの背中がイナヴァウアのように反り返り、すぐに春野寿美礼の腕に引き寄せられる。
 
桜乃彩音さんの比類なき集中力は、幕が下りる最後の一瞬まで決して途切れることはなかった。

クリスティーヌを演じる桜乃彩音さん



※次号のフェアリーインタビューは、星組の湖月わたるさんの予定です。

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インタビュアー  名取千里(なとり ちさと)  
(ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局 /宝塚NPOセンター理事

主な編著書   
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)   
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)  
「仕事も!結婚も!」(恒友出版)


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