ポストに普段見過ごしている風景を再発見
私の書斎の書棚には、 写真家・吉野晴朗(1947年生まれ、宝塚市中山台在住)の写真集 「列島100座・ふるさとの富士」(1990年)「手紙をください」(1991年)「葉精の詩」(1993年)「津高家の猫たち」 (1995年)「ふるさとの富士200名山」(1996年)「となみ平野の四季」(1997年)「伊勢大神楽」(1998年) 「思い出の歌」(2002年) などを配架している。
今回は、上記の写真集から印象に残った2冊を紹介したい。「手紙をください」 は、日本各地の丸ポストを撮りつづけ、"思い出の丸ポスト"に題してまとめた写真集である。
頁を繰ると、吉野は季節の移ろい、日々の出来事をポストと絡めながら詩を見つけ、人生と結びつけている。
だが、ポストに共感を抱きつつも、写真に過剰な思い入れを極力避けている。なのに、どこか温もりやいとおしさが感じられる詩的な写真には、普段見過ごしている風景の再発見を認識させてくれる。 と、ともにポストの佇まいや風景の変遷からは、今を生きる私たちの自然観照と人生へのエールとが見られる。
阪神大震災で主をなくした猫たちへのまなざし
次に「津高家の猫たち」 を見ていて、先の阪神大震災では、私たち人間だけでなく、動物たちも同じように被災したのだと実感した。写真集には、震災前の故・津高和一先生の石彫にまどろむ猫と震災後に主を探すかのような津高家の猫が載っており、思わず頁を繰る手が止まった。
後日談だが、震災の翌年、西宮市大谷記念美術館で開かれた「津高和一展」の会場で、里親に連れられてきた猫が、作品の前で"ニャーン"鳴いている光景をテレビで私は見た。物言わぬ猫の眼に、私は津高先生ご夫妻を思い出した。
私は、写真家・吉野晴朗のカメラを通した自己観照による今後の写真集を楽しみに待っているひとりである。 |