花組最後のバウ主演公演『スカウト』のあと、蘭寿とむさん初のディナーショーが宝塚ホテルと第一ホテル東京とであり、これが花組での本当のラスト。
その後、少しお休みがあって、博多座公演の稽古に入る。
宙組で新しい活躍が始まる蘭寿とむさんにとって、昨年2005年は、エポックメイキングな年だった。
1月、バウ主演作『くらわんか』は落語が原作。
「台本を読んだだけで大爆笑しました。何も考えずに笑えるってすごい。落語にはこんなにおもしろい話がたくさんあるんですよね。また出してください、と先生にお願いしました。それほど深くて楽しかった。出演者は下級生が多く、課題もたくさんあったのですが、幕が開いてからどんどん良くなって感動しましたね。とことん努力すれば必ず光り輝くということが、出演者全員にわかった舞台でした」
7月には宝塚歌劇以外の舞台にも出演した。ハンブルグバレエ団のソリストである服部有吉氏らとコンテンポラリーなダンスで共演した『服部有吉2005PRESENTS R・HATTER』。
「ついていけないのではないかと、メンバー一同、集合日前夜は眠れませんでした。宝塚の男役が男性と同じ舞台に立って、どんな雰囲気になるのか見当もつかなくて。外部スタッフの方にも、男がいるのに、どうして女性が男をやるんだい、と聞かれ、そうか、そう思うよね、普通はと。でも難しい振りが多かったわりには、男役の魅力を研究してくださったそうで、?ザ・男役?みたいな振りをつけてくださった。自分たちは女性が演じる男役のラインの美しさとか、宝塚独自の見せ方で勝負するしかなかったのですが、最後には、すばらしいパフォーマンスだったと舞台上で握手をしていただき、宝塚の先輩方からも宝塚にいることを誇りに思ったとか、クラシックバレエしか観たことがない人たちからは宝塚歌劇を見たくなったなどと言っていただいて、良い経験をさせていただいたなあと感謝しています」
9月には日生劇場公演『Ernest in Love』にも出演した。オスカー・ワイルドの「まじめが肝心」を原作に、アン・クロズウエルの脚本・作詞、リー・ポクリスの作曲による、1960年初演のオフ・ブロードウェイ・ミュージカルだ。蘭寿とむさんは準主役の、ロンドン生まれロンドン育ちの貴族アルジャノン役に抜擢され、生き生きと演じ切った。
「試行錯誤してきましたが結局、本読みの段階で最初に感じたことを掘り下げていくやり方が私には1番いいと、最近わかりました。緊張するのは、やはり稽古場での通し稽古です。化粧もせず衣裳もつけず、自分が創ってきたものだけで、どれだけのことが表現できるか、という掛け値なしの勝負。毎回、激しく落ち込んでいますよ。人前では見せませんが、まだまだだといつも思っています」
2002年、『琥珀色の雨にぬれて』の新人公演で主役クロード・ドウ・ベルナール公爵を演じたときのことだ。もっと濃い目の役が似合うんじゃないかと言う周りの声もあったが、「とむにピッタリ合っているよ、そのままやればいい」と言う同期生の言葉に勇気が出ました。「あのときに、舞台ではもっといろんな色が出せると気づきました。飛び越えるのではなく確実に一歩一歩挑戦ができる、ありがたい機会を与えていただき、今日の私が存在します」
その存在は、宙組に舞台を移し、さらに大きなものになる。 |