副題― 「椎名麟三の家」 保存をめざしてーに見るように著者の田靡新さんは執筆活動と共に椎名文学を継承しようと、 回顧展や1980年の文学碑建立に奔走、 1991年の姫路文学資料館開館に当たっても椎名の資料を集めるなど尽力した。
現在も2012年の生誕100年記念に書写山麓に残る旧家保存に向けた募金活動を行う、 行動する作家である。 その集大成ともいえるのが9月に宝塚出版から発行した 「書写恋しや 夢前夢後」。 数奇な人生を歩んだ椎名の生き様を小説と言う形で表した4つの短編、 著者自身の活動を中心としたエッセイ11編と椎名の年譜で構成され、 椎名文学を継承する貴重な一冊になっている。
椎名と出会った頃の二人が写るモノトーンの写真がデザインされた西村建三氏の装丁による表紙からは、 文学の香りが漂ってくるようである。 タイトルは椎名がシナリオを書いたミュージカル 「姫山物語」 の初舞台に親しかった中村眞一郎が駆けつけ、 夢前川にある塩田温泉で親交を温めた際、 夢前の持つ言葉の美しさに書き残した 「夢前 夢後」 からの引用と田靡さんがあとがきに書いているが、 椎名に寄せる熱い思いと古里姫路を愛する思いが凝縮した地味ながらも後世に残る本と言えるのではないだろうか。
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