私は遺跡をモチーフにロウケツ染の作品を制作していますが、20年前に中国八達嶺に行き長城に魅せられ、以後何回となく訪れ、様々な長城を染めています。遺跡に秘められた歴史を目の当たりにすると想像が膨らみ、制作意欲が掻き立てられます。中国に行ったことのない鉄斎が、あれだけの作品を描くことができたのは、中国の書物や経典などを読破し、想像力を巡らせる中で、自分が理想とする中国的な世界を確立していったからでしょうか。
吉祥画にしても、中国最古の詩歌集「詩経」や道教の書「荘子」から題材を得ていて、それが賛に記されています。解説を読むとなぜ鉄斎がその画を描いたかがよく判り、興味が湧いてきます。三千年に一度実を結ぶという桃を3回も盗んで長寿をほしいままにしたという前漢の東方朔の画などは顔つきがユーモラスで親しみを感じますね。鉄斎といえば南画という硬いイメージがあったのですが、作品を観ると、洒脱なものから重厚なものまで幅広く描いていて身近に感じました。また、書の達人でもありますね。賛のバランスが抜群で天性の才能を感じさせます。
画は一気呵成に描かれていて力強いという印象を受けました。水仙と椿と梅を描いた「楳花山茶水僊花図」(1回目展示)は画面からはみ出さんばかりの斜めの構図に勢いを感じますし、蓮の花を描いた「水郷清趣図」(同展示、写真・河井さんの後)は枯れた葉が垂れ下がっている大胆な構図が見事です。軸装で目に付いたのが阿多福図(同展示)。鉄斎好みなのか他の装丁とは趣が異なり、辻が花のような纐が使われていて珍しいものでした。
染めには三纈といって蝋纈ロウケツ、夾纈キョウケツ、纐纈コウケツがあり、いずれも正倉院に残っているのですが、染料には薬効があり古代から人間の知恵が生かされていたのに驚きます。鉄斎が先人に学び、自らを高めたように今、鉄斎を始めとする先人に学ぶことは大切なことだと思います。 |