現在、篆刻は一つのジャンルとして専門的に扱われますが、本来は書画と一体のもので、切り離すことはできないものでした。文人は自ら篆刻も嗜み、鉄斎にもいくつかの面白い自刻印があります。鵞図(前期展示)の引首印には独創性がないことを意味する「依様葫芦」(葫芦は瓢箪のこと)と自刻した瓢箪型の印が捺されていて、鉄斎のユーモアを感じますね。遊山翫水図(前期展示)は書画を書き、詩を詠む仲間同士が集う文人の憧れの世界ですが、そこではそれぞれが自分の篆刻を自慢しあい楽しんでる様子が目に浮かびます。
「結墨縁」という引首印を用いているのも、画題にこだわり、画に意味を求めた鉄斎ならではといえるでしょう。私も最近、創作活動をする仲間同士が集まり語りあう場を持つことができ、人生をさらに楽しんでいます。価値観を共有できる仲間というのは鉄斎が理想とした世界だといえるのかもしれません。
鉄斎晩年に「現居士身」と刻した印を贈った西園寺公望や用印の多くを刻した篆刻家、桑名鉄城もそんな仲間だったのでしょう。
篆刻は方寸の世界といわれ3センチ四方が基本ですが、普陀落山観世音菩薩(前期展示、写真左上・二穴さんの右後)には鉄城の刻した径約10センチ、六角形の大きな落款印「無量寿仏堂」が捺され、その朱文がみごとです。大きいにもかかわらず、線が厳しく、勢いがあります。
今回の展示は画だけでなく、画の添物と見られている印に焦点を当て印影と印文、その意味が解説されていて画を見る面白さが倍増する企画で、篆刻をやっているものとしては大変嬉しく思いました。
また、印影の重複が無い14面の画帖・東坡談図(全期展示)は鉄斎の遊び心が伝わってきて心がほころびました。
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