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-バックナンバー- 2005年10月号

ところが瀬奈じゅんさんには、もっと大きな節目が待ち受けていたのである。04年、花組で活躍し続けていた瀬奈さんに、辞令が出た。月組への組替えと、『エリザベート』のエリザベート役、そして月組の次期主演男役就任だ。「三つ同時にお聞きしました。でも申し訳ないのですが、その時の私はエリザベートのことしか頭にありませんでした」

その理由は、瀬奈じゅんさんが男役であることに尽きる。02年、瀬奈じゅんさんは花組時代に『エリザベート』のルキーニを演じた。当時、評判が評判を呼んで、やけどしそうなくらい、瀬奈じゅんさんの人気が高まっていったのを覚えている人は多いだろう。その後も『野風の笛』の柳生宗矩や、月組に特出した『飛鳥夕映え』の中臣鎌足、そして前後するが宝塚バウホール2度目の主演作『二都物語』など、期待通りの実力を見せつけ、男役スターとして燦然と輝き続けていた。そんな時の、エリザベート役である。

 月組『エリザベート』は宝塚歌劇5度目の上演。すべて歌で表現する、この高度なウィーン発ミュージカルにおいて、エリザベート役は、15歳から62歳までの起伏の多い人生を黄泉の帝王トートとのラブストーリーとして演じ切ることを要求される。初めて男役がエリザベートを演じる、過去最大の困難に挑む舞台だった。

「エリザベートを演じたことで、自分をほめてあげることも必要なのだと初めて知りました。それまで私は、努力しても結果がついてこないというもどかしさで、ストイックに自分を痛めつける一面があったのですが、それだけではいけない、自分をほめてあげたくなるほどがんばればいいのだと気づいたのです。でもお話をいただいた瞬間は本当に驚き、困惑しました。13年間、がんばってきた男役をやれと言われたら、多少の自信はありましたが、女性の裏声で歌う練習は音楽学校以来、全くやっていませんでしたから。しかも音楽学校の声楽の成績は40人中35番以上になったことがなく、苦手意識がありました。でも、ありがたいことに、高音がどんどん出るようになると、すごく楽しくなってきた。『Ernestin Love』では、さらにエリザベートでの音域を生かした男役の声の出し方を訓練していただき、気持ちよく歌うことができました。本当にラッキーでした」

神は乗り越えられない試練は与えないというが、選ばれた人の自信に輝いている美しさには侵しがたいものがある。
「先日、稽古の後、みんなで食事に行った時に谷先生が、私のいいところは不器用なところだと、言ってくださったんです。たぶん出来上がった男役・瀬奈じゅんとして見られているだろうが、ただの宝塚好きの不器用な人間なんだよ、と。組替え自体はめずらしいことではありませんが、組子と触れ合う時間が少ないまま新生月組披露公演を迎えた私の状況を考えて語ってくださったのがうれしかったです」
華やかな舞台姿には、それに見合うだけの努力と挑戦の物語がある。

「瀬奈じゅんといったらこれだよね、というものを、自分で決めるとおもしろくない男役になると思う。『REVUE OF DREAMS』の中村一徳先生が、瀬奈じゅんのままで踊ってほしいと言ってくださったのですが、私が目指してきたことも瀬奈じゅんそのものが魅力的なこと。だから、すごくうれしいです。久しぶりに、思いっきり踊ります!」

今、何が観たいって、旬の瀬奈じゅんさんのショーほどすばらしいものはないと思う。

※次号のフェアリーインタビューは、 月組の北翔海莉さんの予定です。


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インタビュアー  名取千里(なとり ちさと)  
 (ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局 /宝塚NPOセンター理事  

主な編著書   
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)   
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)  
 「仕事も!結婚も!」(恒友出版)