「お芝居でロシア出身の画家・シャガールを演じています。すごく魅力的な人で、『生きている間に認められる画家なんて滅多にいない』という台詞があるんですが、それがわかっていて、食べることに困るほどお金がない生活の中でも絵を描き続けているんですよ。その絵に賭ける情熱ってすごいなあと感動します」 舞台で観るのとまったく変わらない華やかな表情で、立樹遥さんは話し始める。
宝塚大劇場で3月28日まで上演中の星組公演『1914/愛』は、宝塚歌劇が誕生した1914年のパリ・モンマルトルが舞台。伯爵家を出て自由人として生きる主人公のアリスティドと歌手志望の娘アデルの恋を芯に、アリスティドが経営するシャンソン酒場に集まる若い芸術家たち、詩人のアポリネ―ルや画家のモディリアーニ、ユトリロ、ロ―ランサンらの青春群像が、たっぷりの歌とダンスで綴られる。
「シャガールはユダヤ人で小さい頃に迫害された苦しい経験があるのですが、芸術家としての魂の激しさはすべて絵に向けていて、性格的には穏やかでやさしい人なんです。仲間が自らの才能に見切りをつけて出て行こうとするのを止める時も、必死なんだけれども思いやりがあって、自分たちも苦しい、だけど百年後、二百年後に認められる画家もいるんだから諦めずにがんばろうよって励ますんです。夢を諦めてはいけないというのは、今につながる強いメッセージだと思います。夢があっても、困難にぶつかるとすぐに諦めてしまいそうになりますよね。私はシャガールに出会って、諦めるのはいけないなと思いました。諦めてしまったら、絶対に夢に辿り着けない。諦めなければ時間はかかっても叶うかもしれないんです。可能性があるんですよね」
どんな夢も諦めたらそれまでだ。宝塚歌劇の舞台に立つ夢を実現させた立樹遥さんの夢の始まりは、中学3年のときの観劇である。「チケットがあるから、と友人に誘われて初めて観劇し、女性が男役を演じていることにカルチャーショックを受けました。次に『戦争と平和』を東京宝塚劇場の3階席で観た時、幕が上がったとたんに号泣してしまって。大階段の真ん中に主演男役の日向薫さんが軍服を着て立っていらっしゃったんです。私もここに入る、入りたいと、その日の帰りに音楽学校の本を買いました」
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