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-バックナンバー- 2004年11月号

もともと武将のような強い役は、真飛聖さんによく似合う。真飛さん自身も、強い役、色濃い役の奥深さに魅力を感じていた。

そんな真飛聖さんが日生劇場公演『雨に唄えば』の女優リナ・ラモント役に抜擢されたのは、2003年5月だった。
「どうして私に女役が回ってきたのだろう」と思った真飛さんだが、悪声という設定も、海外のオペラ歌手が使う発声法を会得して、33公演を務め上げた。

さらに同年11月、梅田コマ劇場公演『シンデレラ』の王子役で外部出演-。
「宝塚の男役は白馬の王子様で白のロングブーツが似合う、というイメージはもっていましたが、いざ男役になってみると、自分はそういうタイプではないと感じていた時に、女優と王子役という、新しいイメージの役を与えていただき、様々な役を演じる楽しさを実感しました」

タイミングがよかったというべきか、真飛聖さんの運の強さか、湖月わたるを新トップに迎えて新生星組が総力を挙げ取組んだ『王家に捧ぐ歌』が、2003年度の芸術祭演劇部門優秀賞を受賞した。

「1年が早いなと毎年思うのですが、昨年は特に充実した出来事づくしの1年で、ものすごく早かったですね。自分のいろんな色が出せて、本当に恵まれた年でした」今年は、『花舞う長安』『ロマンチカ宝塚'04』が東京宝塚劇場のラストを締めくくる。

「新人公演を卒業後は本公演だけになり、終演後の自由時間が増えます。これでいいのだろうかと思うこともありましたが、本公演だけに集中できる喜びというか、本公演だけに全力を尽くすことを学びました。今は終演後に新人公演のお稽古することなど考えられないくらい、毎日いい脱力感があります」それだけ与えられるものが多くなったのである。

真飛聖さんは3歳からクラシックバレエを習っていた元バレリーナ。「いえいえ、バーにぶら下がっていただけです(笑)」と言うが、優雅な身のこなしは嘘をつかない。友人の強い勧めで初めて開いた雑誌『歌劇』の1ページが、十代半ばの真飛さんの進路を決めた。「宝塚歌劇の舞台は観たことがなかったので本当に不思議なのですが、星組の日向薫さん、紫苑ゆうさん、麻路さきさんが黒いスーツを着て、旧・大劇場の赤い絨毯の上に立っていらっしゃるグラビアを見た瞬間、ハッとして、ここに入ろう、と思ったんです」

自分の身長の高さや、ちょっと低めの声が、男役に役立つことに気づいたのは、もっとあとのことだ。

宝塚音楽学校の本科生になった年、宝塚歌劇80周年記念の運動会が開催された。真飛聖さんら本科生が参加した応援席は、星組の隣だった。「4組とも応援していたら、星組の上級生から『あなたたち、初舞台はどの組か、知ってる?』『はい、星組です』『じゃあ、どの組を応援すればいいか、わかるわね』『はい、星組です』と(笑)。結果は星組が優勝しました。私はそのまま星組に入って10年。今年の90周年記念運動会ではV2を目指します。私たちは公演にも命を賭けますが、運動会にも命を賭けるんですよ」

噂では、武庫川の川原などで練習をしているそうですね、と水を向けると、
「エッ、そんなこと聞いていますか。秘密ですよ。」とびきり明るい光を放つ目をして、早口になった。

※次号のフェアリーインタビューは、雪組の音月 桂さんの予定です。



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インタビュアー  名取千里(なとり ちさと)  
 (ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局 /宝塚NPOセンター理事  

主な編著書   
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)   
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)  
 「仕事も!結婚も!」(恒友出版)