トップスターは楽屋に戻る時間がないくらい出番が多い。1日の大半を役として生き、さらに一つの役を1ヶ月半、演じ続けることの充実感は、次の舞台のエネルギーになる。
昨年、花組と雪組に若いトップが誕生した。 いったい、湖月わたるさんは、いつ、どの組のトップスターに就任するのかと、やきもきさせられた。そんな中で湖月わたるさんは日生劇場公演「風と共に去りぬ」にアシュレ役で出演し、新神戸オリエンタル劇場とサンシャイン劇場公演「フォーチュン・クッキー」に初めて女役で出演するなど、さまざまな舞台経験を重ねた。
「今思うと、専科では本当にいろんなことをさせていただきました。あまりに専科生活のインパクトが強くて、まだ延長で走り続けている気がするくらいです。専科生活で得たことは大きいです。
新しい相手役の檀れいさんとは二人とも専科から『風と共に去りぬ』に出演して、メラニーとアシュレで初めてお芝居しました。その経験があるから今回、一本立ての大作で、しかもラブではない、人間同士の対話というむつかしい表現にも、気持ちを一つにして取り組むことができるんだと思います。私たちにしかできないものをだそうねと、檀ちゃんと話しているんですよ」
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©宝塚歌劇団
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その新生星組披露公演「王家に捧ぐ歌」は、スペクタクル・オペラの代表とされるヴェルディの歌劇 「アイーダ」を、宝塚歌劇独自の演出で描いた絢爛豪華な一本立ての超大作だ。
湖月わたるさんが演じるのは、エジプトの若き将軍ラダメス。絶対的権力をもつファラオの娘アムネリスは、ラダメスの心だけは手にすることができない。ラダメスが愛しているのは敗戦国エチオピアの王女アイーダなのだ。アムネリスを娘役トップの檀れいが演じ、アイーダには安蘭けいが初の女役で挑む。
勝利の褒美にラダメスが願い出た、エチオピア人の解放と平和は、ファラオによって叶えられ、エジプトに繁栄がもたらされるが、権力に執着し堕落していく。
「ラダメスは快活に信念を貫きます。 現代からはあまりにも遠い古代エジプトが舞台ですが、 今も戦争は身近に繰り返されているので、人間が生きる意味や平和を求める思いがアイーダからラダメスに、
ラダメスからアムネリスに伝わり、 みんなが成長していく過程をお見せできたらいいなと思います」
ロシアのマイヤ・プリセツカヤ振付による美しいバレエシーンも見所の一つ。
「いただいた振付どおりに表現することと、もう一つ、大きな課題があって、ほとんど歌で綴られた作品なんです。台詞はわずか。 シンプルに削られた歌詞にのせて思いを伝えることの難しさを感じています」 あの「エリザベートに2度、 出演している湖月わたるさんだ。1度目は星組でエルマーを、2度目は発足メンバーだった宙組でルキーニを演じた。 そのほかに薩摩弁での台詞や仮面をつけての演技など、大きな課題に挑んだ舞台で絶賛された。
大器は今、 マラソンに例えると最後のトラックに入ってきたところだ。 いかに悔いなく、何周走るか。トップとして成長していく姿を追い続けたい。
インタビュアー
名取千里(なとり ちさと)
(ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局
/宝塚NPOセンター理事
主な編著書
「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)
「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)
「仕事も!結婚も!」(恒友出版) |
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