目覚めた映画音楽の素晴らしさ
昭和10年生まれの池谷亮一さんが映画館に通い始めたのは幼少の頃。初めてみた映画は『残菊物語』(1939年)だった。10才で終戦。
焼け跡の映画館でアメリカ映画が上映されるようになると、週替わりの映画館に通い詰め、明るくさわやかなホーム・ドラマやミュージカルの虜になっていった。思春期には民族的感性が色濃く出されたヨーロッパ映画も好んでみるようになり、そして、映画音楽の素晴らしさに気づいたのは『紅の翼』(1954年)。パイロットに扮したジョン・ウェインが口笛を吹きながら歩くオープニングに魅了され、覚えたばかりの旋律を口笛で繰り返し吹きながら帰ったという。
映画と音楽の関係について書かれた本は意外に少なく、自ら書くことになってしまったという本書は映画、監督、曲目、シンガーソングライターなど様々な切り口で映画音楽を語っている。前半ではジャズやブロードウェイ・
ミュージカルを取りあげ、1920年〜40年代に時代を代表するアメリカのポピュラー・ソングとして愛されたスタンダード・ナンバーが「ジャズとヨーロッパ的伝統音楽の交流の所産として生まれた」過程をたどっている。
また昨今の映画にも、古いジャズ・ナンバーなどが使われており、ライアン・オニール主演の『ペーパー・ムーン』(1973年)では「わが心のジョージア」など15曲のオールド・ヒットが流れているとある。メグ・ライアン主演の『恋人たちの予感』(1989年)
では、ガーシュインの名曲をはじめ「いろんな人に会ったけれど、やっぱりあなたでなければだめ」という「It Had to be You」が何度も使われていたとも。「欧米映画を鑑賞する時には、じっと耳を澄まさざるを得ない」という池谷さん。エンディング・ソングに込められたスタッフ達の洒落っ気たっぷりの意図に気づいた時は、何度も得した気分になるそうだ。
池谷さんの実家、甲府の果物屋の倉庫が戦時中映画のフィルムの保管場所になっていたという秘話も見逃せない。
映画はミュージカルに
アメリカ映画と〈スタンダード・ナンバー〉の蜜月
池谷亮一 著 |
発 行 日 2002年11月30日
発 行 宝塚出版 宝塚市山本台1−14−10
0797−88−0950
発 売 星雲社 03−3947−1021
印刷・製本 あさひ高速印刷 (株)
A5判 並製本 320頁
定 価 本体1800円+税 |
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