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-バックナンバー- 2002年5月号

  「原作では、 主人公が海外に赴任している日本人の外交官なので、 自分から行動をおこすというよりは周りで起こる出来事に対応していく。 これが舞台になったらどうなるんだろうと思いましたが、 谷正純先生が宝塚歌劇の主人公として若々しく精悍で行動力のある青年に描いていらっしゃるので、 私は先生の演出どおりに演じられたらいいんだと」
 登場人物のほとんどが西洋人という設定の中で、 日本人青年をどう演じわけていくのか。
「視覚的には髪と肌の色がちがいますが、 特に日本人ということを意識するよりも、 外交官の堀江亮介はすごくグローバルな教育を受けていて、 テーブルマナーからダンス、 レディファーストの習慣など、 むしろ内面的には日本人ばなれした人物なんです」  
 芝居というのは道端の石をも演じる虚構の世界。 なかでも宝塚の男役は虚構そのもの。 存在自体が個性的な男役が半数を占める宝塚の舞台で、 個人のオリジナリティをどう出すのかはむずかしい問題だ。
  「私はどちらかというとメンタル的な部分を掘り下げていく役づくりを好んでいるふうなところがあるので、 台詞がないところの心理描写をどれだけのお客様に受け取っていただけるか、 それが私のオリジナリティだったらうれしいです。 それには周りが見えないほど役に没頭するのではなく、 例えば堀江亮介になりきった香寿たつきのほかに、 堀江亮介を演じる香寿たつきを客席から見ている香寿たつきがいないと、 結果として自分が表現したいものをお客様に伝えることができません」
 数年前、 香寿たつきさんは自分の中に何人もの香寿たつきがいることに、 これでいいのかなと首を傾けていた。 今回、 断言したその答はいつ手に入れたのですか。
  「いつとははっきりしませんが、 これまでにいろんなターニングポイントがあって、 最近では専科に移籍して組子ではなくなった時です。 自分はもしかしたらトップにならないかもしれない、 でもトップスターになることだけが自分の価値観なのか、 と自問して、 いやそうじゃない、 自分が出演することで作品がよくなるという宝塚のプロフェッショナルを目指そうと。 その考え方が芽生えてから見えてきたものは大きいですね。 運よくトップになれればそれはそれでいいし、 ならなくてもやるべきことをきっちりとやって悔いなく終えようと決めていました」
 その後の 『凱旋門』 『ゼンダ城の虜』 は無心に舞台を楽しめたという。
 組意識から解き放たれた時に、 トップの呪縛からも自由になった。 香寿たつきさんのトップ披露公演が一段と美しいのは、 宝塚の優れたプロフェッショナルだからだ。



インタビュアー
 名取千里(なとり ちさと)

  (ティーオーエー、日本広報学会会員/現代文化研究会事務局
  /宝塚NPOセンター理事
  主な編著書
  「タカラヅカ・フェニックス」 (あさひ高速印刷)
  「タカラヅカ・ベルエポック」(神戸新聞総合出版センター)
  「仕事も!結婚も!」(恒友出版)
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