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-バックナンバー- 2002年10月号
 
日本の歴史に残る文人、富岡鉄斎は特定の師を持たず画派や画風を越えて先人の作品を数多く摸写し、鉄斎独自の世界を確立しました。鉄斎美術館では10月14日まで「鉄斎の粉本−摸写のいろいろ−」が開催され、鉄斎が関心を抱いた人物や尊敬した文人の摸写が展示されています。鉄斎の興味や関心がどこに向かっていたのかまで読みとれ面白い展示です。
 この展覧会を浪速のシャガールといわれNGKの舞台に立ちながらライフワークとして絵を描き続けている漫才師、ちゃらんぽらんの大西浩仁さんと訪ねました。

会期 〜10月14日(月・祝)
月曜日休館
ただし祝日の場合は翌日(火)休館
開館時間:午前10時〜午後4時30分(入館は4時まで)
入館料:一般300円、 高大生200円、 小中生100円
(老人、 身体障害者手帳提示の方は各々半額)
宝塚市米谷字清シ1 清荒神清澄寺山内 TEL0797−84−9600


奥へ奥へと扉を開いていく鉄斎

 僕は漫才をやりながらずっと絵を描き続けているんですが、描かされているというか自然に心と体が動いてしまうんです。今も銭湯や温泉に富士山を描く「温泉百選絵画」で全国行脚をしています。今年は吉本興業90周年記念にNGKの前で「吉本七福神」を描きました。神社仏閣が好きなんで仏像はモチーフの一つですね。ほとんど抽象画ですが、内面を表現するには形は邪魔なんです。人物画にしても肩書きではなくその人物に惚れていなければ本当の絵は描けない。鉄斎は形から入るのではなく自分が興味があるもの、感動したものを描いているから勢いがあって素晴らしい。鉄斎は勉強のために数多く摸写をしたそうですが、摸写は自分探しですね。それを発酵させて自分にしかできない表現を生み出してこそ本物です。そして、鉄斎は最晩年に観るものに感動を与える力強い絵を描いている。美術館に来ると、「なんで、そんな絵が描けたんやろか」と時代を遡って絵を観てみるんです。絵を通して鉄斎が放つ空気に触れたいんです。現代が失ってしまったといってもいい鉄斎的価値観に触れる、美術館はそんな空間ともいえますね。
 自分の心の中にある扉を奥へ奥へと開いていけば、歳をとって肉体は衰えても精神は老いるどころか若返るのかもしれない。鉄斎はきっと死ぬまで扉を開き続けていたから90歳で観るものを圧倒する絵が描けた。
 表現するものが絵であっても漫才であってもたどり着くところは同じ。目に見えるものじゃない。そこに気づく人が余りにも少ないのが残念です。
 鉄斎美術館は十代の頃から来ていましたが、都会の真ん中ではなく宝塚にあるというのがいいですね。宝塚は僕の住んでいる尼崎からも近いので小さい頃からファミリーランドや清荒神さんによく来ていて、独特の雰囲気を感じる街やから、この風土を大事にしてほしいですね。


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