花組トップスター愛華みれさんの代表作は、
一つには決めがたい。
川上音二郎の半生を演じた 『夜明けの序曲』、 光源氏を蘇らせた 『源氏物語あさきゆめみし』、
美貌の青年王 『ルートヴィヒU世』、 そしてサヨナラ公演の偉大な芸術家
『ミケランジェロ』 など、 よく知られた人物を立て続けに演じたトップも珍しいのではないだろうか。
愛華みれさんの 『ミケランジェロ』 のポスターは、 今にもこちらに向かって腕をのばしそうなほど強烈な存在感を放っている。
重たそうな衣装も、 堂々と似合っている。
「実は、 これで踊れるのかなと思うくらい、 重いんですよ。 実在の人物を演じる場合、
舞台以前に、 その人物のファンがいらっしゃって、 資料もあります。
そのファンの方たちにも納得していただかないといけないという怖さがありますね。
私の場合はできるだけ現地に出かけて、 肌で感じたものを大事にしているんですが、
今回も退団写真集の撮影の仕事があったのでイタリアへ行ったついでに、
石切り場まで足をのばしてきました。 高所恐怖症なので、 原始的な装置で岩の下に降りるのが怖くて嫌がっていたら、
『言葉がわからなくても君が思っていることはよくわかる。 こんなに表現豊かな日本人に会ったのは初めてだ』
と言われてしまいました。 でも、 ちゃんと降りましたよ。 本で見る
『最後の審判』 と、 現地で感じる 『最後の審判』 はちがった。 それを舞台で生かせればと思っています」
愛華みれさんが退団発表をしたのは2月14日だった。 11月11日の東京宝塚劇場公演千秋楽まで、
あと4ヵ月を残すのみである。 「私は不器用なので、 宝塚をやめてしまうまでは、
次のことを考えられないでしょうね。 これまでも“今”だけに全力をつぎ込んで、
必死に燃料を焚きつけながら生きてきたから、 最後までたぶん、 退団後の計画を立てる余裕はないですよ。
宝塚を辞めることを、 よく決心できたなと思います。 宝塚が好きなので、
本当は自分にはいつまでも辞められないかなと思っていたんです」
6月に、 年一度の 『TCAスペシャル』 があった。 7月退団の月組トップ真琴つばさ、
10月に退団する星組トップ稔幸とは同期生の仲。 3人で初舞台 『愛あれば命は永遠に』
の主題歌を歌うスペシャルコーナーでは、
「グッと胸がつまってしまって。 泣くつもりはなかったんですよ。 でも初舞台のロケットで真琴、
稔、 私と並んでいたのを思い出したら、
あれから月日がたったなとか、 みんな本当にやめるの、 とか、 いろんな思いが巡ってきて、
すごく素の自分にさせられてしまった。 稔は優等生って感じでキチッとコメントして、
次に真琴がカッコよく決めて、 そのあと私。 そこで泣いてしまったからカッコつかないですよね」
タモさんらしい、 とファンなら誰もが思い、 感動した瞬間だ。 ポジティブで、
直球が得意な愛華みれさんは、 情にもろい。 でも、 意外に甘え下手なのだそうだ。
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