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-バックナンバー- 20001年6月号
 

評論家 河内厚郎さんと観る
「鉄斎 春季展−印癖を娯しむ−」



 新緑の中に佇む鉄斎美術館。 眼前には甲山をのぞみ一幅の絵を見るようで心がなごみます。 6月3日まで開催されている 「鉄斎 春季展−印癖を娯しむ−」 は15日から3回目の展示が始まります。 鉄斎が様々な思いを込めて捺したであろう数々の印に焦点をあてた初めての企画展。 阪神間の文化をライフワークとする評論家であり、 宝塚映画祭の実行委員長も務めた河内厚郎さんと氏が大好きだという荒神さんの参道を抜け美術館を訪れました。

  会期 〜6月3日(日)
※月曜日休館
開館時間 午前10時〜午後4時30分 (入館は4時まで)
入 館 料 一般300円、 高大生200円、 小中生100円 (老人、身体障害者手帳提示の方は各々半額)
宝塚市米谷字清シ1  清荒神清澄寺山内 TEL0797−84−9600
 

河内厚郎・1987年から「関西文学」編集長。2000年11月、シネピピアを中心に行われた第1回「宝塚映画祭」の実行委員長。 (財)阪急学園・池田文庫理事。宝塚文化振興財団評議員。4月夙川学院短期大学特任教授に就任。宝塚造形芸術大学でも文芸概論を講義。近著に「もうひとつの文士録」(沖積舎)


日本の伝統文化が凝縮している清澄寺
 
 かつて評論家を志す者は必ずといってよいほど小林秀雄の世界を通過したものですが、 あの厳しい批評をする小林秀雄が絶賛している数少ない画家の一人が鉄斎なんですね。 よく清澄寺を訪れたそうで、 酒を飲みながら一日中鉄斎の絵を観て過ごしたというのですから、 どんなに凄い作品なのか興味を持ったのが鉄斎を知った最初です。
 私自身は仕事がら外国の方を美術館に案内することは多いのですが、 実は絵そのものにはさほど興味がなく、 今回のようにじっくり観賞したのも久しぶりです。 説明を聞くと鉄斎が印ひとつにもこだわりをもって、 捺したことや幅広い交友関係なんかもわかり、 面白いものですね。 「おどけ画」 のような軽妙な筆もあれば、 迫ってくるような水墨もある。 作品のトーンが全て異なるのにもびっくりさせられました。 鉄斎に師匠はいないといいますが、 様々な画風を学び、 蓄積した揺るぎない技術を感じます。 やはり基礎的な技術の上にあの自由奔放な感性が花開いたのでしょう。
 私は清荒神が大好きで外国人の方が来ると必ず案内するんですよ。 昇竜にたとえられる参道には昔風の店が並んでいて、 お寺の境内に立派な清荒神社があり、 日本画を展示する美術館がまさに鉄斎が描く風景のような山間にある。 そして、 清荒神駅前の図書館には聖光文庫もあって、 日本の伝統文化がそこに凝縮しているようでとても喜ばれます。 だいぶ以前ですが、 聖光文庫で七代目幸四郎、 菊五郎などが清澄寺に奉納した歌舞伎の 「隈取」 展をやっていたことがあって、 歌舞伎好きの私は大いに興味をひかれたのですが、 梨園とお寺は親交が深いと聞きますから、 大阪での興行の時にでもチャンスがあれば浅草寺のように荒神さんの参道でお練りが見られればと密かにアイデアを膨らましているんです。 その時にはもう一度隈取展を開催してほしいですね。
 また、 阪神間には美術館が多いですから、 ネットワークを密にして複数の美術館を使って一つのテーマで何かやれれば面 白いんじゃないかとも思っているところです。

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